空を泳ぐ魚
終日 釣り糸を垂れ
川に時を刻む少年
空を泳ぐ魚が汝(なれ)に教えた
孤独であることの
したたかさと
やわらかさを
波をまさぐる目
風をふるわす指
かぐわしい夕べの雫を
とどめる睫毛
アタリが見えなくなれば
お米を煮込んだ
キャンベル・スウプ
ひと皿の聖餐を
プラタナスの木立の中を響もす
あんぜらすの鐘とともにいただく
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彼女は灯もつけずに庭にいた。
「みみずを掘っているの……」
手には空鑵(あきかん)をさげて、黒い土をほじくっていた。みみずは百匁(もんめ)掘れば、いくらになるとか、またどこかで聞いて来たのだろう。
僕は部屋へ這入って電気をつけた。机の上には、何かまた彼女の落書が書いてある。「一、魚の序文。二、魚は食べたし金はなし。三、魚は愛するものに非(あら)ず食するものなり。四、めじまぐろ、鯖、鰈、いしもち、小鯛。」
彼女は猫のように魚の好きな女であった。どんな小骨の多い魚でも、身のあるところをけっして逃さなかった。―
(林芙美子『魚の序文』)
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