月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

伝説

フィギュア335-1


物語ではない。

人生なのだ。


浅田真央というひとりの女性の歩んだ道なのだ。



彼女が遺したものはメダルではない。

誰もが胸に刻んだ演技なのだ。


誰もが愛し、祈り、寄り添った、浅田真央というスケーターの伝説なのだ。



フィギュア335-2


希望はかなうものと信じるのだ

情熱は心の活力ではなく
魂と外界の衝突に過ぎないのだ

大切なのは自分を信じること
幼な子のように無力であること

なぜなら無力こそ偉大であり、力は空しい

人が生まれる時は軟弱で
死ぬ時に枯れ固まる

木も成長する時には軟らかく
乾き固くなるのは死ぬ時なのだ

硬直と力は死と隣りあわせ
弾力と軟弱こそ命の象徴

凝結したものに希望はない
(アルセーニィ・タルコフスキー)


フィギュア335-3

フィギュア335-4


君には何も見えないかもしれない、

でも君の頭上を今、太陽が移ろいゆくところなんだよ……。
(アルセーニィ・タルコフスキー『遺言』)

フィギュア335-5


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こころがふるえた

フィギュア334-1


深夜四時二十分…こころがふるえた。


ジャンプのミスを重ねて、身体に追いつかない気持ちを抱えて、それでも最後まで、ノクターンの旋律をなぞり続けてゆくあなた。

あなたが冒頭に跳んだトリプルアクセルを失敗と簡単に言い捨てる人間たちには、プレッシャーに負けたとしたり顔で解説する人間たちには、あなたの挑戦の価値をどんなに言葉を尽くして説いたところで、ほんの露ほども理解してはもらえないのだろう。

あなたのトリプルアクセルは、もう何年も前からレジェンドなのに、あなたしか挑戦することも出来ない演技なのに、何故その凄さを、その素晴らしさを、その意義の重さを、もっと誰もが口をそろえて讃えようとしないのか。

疑問符だらけの順位や得点などどうでもいい。

失敗や転倒だってどうでもいいのだ。


あなたはひとり、女子選手の誰もが跳ばないトリプルアクセルに挑戦し続けてくれた。
孤高の闘いに、言い訳もせず、ただ挑み続けてくれた。

ほかの誰もやらないことを、ひとり続けるその辛さ、孤独を、どれほどの人間が理解していたというのだろう。


あなたの積み重ねた日々が、鍛錬と努力に明け暮れた時間が、こころと身体のちぐはぐなあなたにも、宝石のように煌びやかなステップを踏ませる。

美しくあることの誇り、祈りを、伝えてくれる。


あなたのスケートは芸術だ。

もうとっくに分かっていたはずのことなのに。


フィギュア334-2

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


花であることでしか
拮抗できない外部というものが
なければならぬ
花へおしかぶさる重みを
花のかたちのまま
おしかえす
そのとき花であることは
もはや ひとつの宣言である
ひとつの花でしか
ありえぬ日々をこえて
花でしかついにありえぬために
花の周辺は適確にめざめ
花の輪郭は
鋼鉄のようでなければならぬ
(石原吉郎『花であること』)



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四大陸選手権2012女子シングル

フィギュア295-1


【四大陸選手権女子結果総合】

1: アシュリー・ワグナー (米国) 192.41
2: 浅田真央 (日本) 188.62
3: キャロライン・ジャン (米国) 176.18
4: 村上佳菜子 (日本) 169.32
5: 張可欣 (中国) 162.59
6: アグネス・ザワツキー (米国) 157.23
7: アメリー・ラコステ (カナダ) 147.65
8: シンシア・ファヌーフ (カナダ) 147.47
9: 今井遥 (日本) 134.49
10: カク・ミンジョン (韓国) 130.52
11: 耿冰娃 (中国) 127.89
12: ビクトリア・ムニス (プエルトリコ) 117.83
13: アレクサンドラ・ナハロ (カナダ) 117.11
14: 王展玲 (台湾) 103.69
15: サンドラ・コフォン (タイ) 103.15
16: 朱秋穎 (中国) 102.77
17: シャンテル・ケリー (オーストラリア) 102.49
18: ミミ・タナソン・チンダスク (タイ) 97.19
19: ユン・イェジ (韓国) 96.85
20: メラニー・スワン (タイ) 96.16
21: サ・チェヨン (韓国) 94.95
22: レジェンヌ・マレ (南アフリカ) 94.34
23: 江ミンミン (台湾) 93.79
24: ザイラ・コスティニアーノ (フィリピン) 87.26


四大陸選手権女子シングルのジャッジについて、もうさんざん前のコメレスで語っているのだが、少し冷静に頭を整理して、繰り返し言っておくべきことだけ述べることにしよう。

まずはいくつかのブログやコメントなど、ネットで見かけた一部の意見では、優勝した選手はベスト・パフォーマンスだったから順位に納得、あるいは浅田選手はジャンプに失敗があったから二位でも仕方がないというもの。

無論、こうした意見もまたそれぞれの主観なのだから決して真っ向から否定しようとは思わない。
まさきつねが不思議だったのは、選手個人に対する好き嫌いや、それぞれの出身国の違いというのはあるだろうけれども、競技において行われていたのはあいかわらず発狂しているとしか思えないジャッジであり、トリプルアクセルという女子の中で唯一の武器をもって挑んだ浅田選手に対して今回もまた偏狭的な評価が下されているにも拘らず、相手が某韓国選手ではないというだけで、随分とおとなしく採点や順位に得心する人が多いのだなということだ。

勿論、バンクーバー五輪前後の時のように、結果に対してむやみやたらに八百長だの陰謀だのと騒ぎ立てるのを好しとする訳ではない。
だが、あのころよりもファンが成長したのか、採点システムやルールを勉強して、冷静に判断する力を身につけたということなのか知らないが、いずれにしても多くのファンの論調がワグナー選手の躍進を喜び、浅田選手は次回のワールドで頑張ればいいという内容で丸く収めているのが目に付いたのだ。

実際、浅田選手の評価が低すぎると言えば「マヲタ」呼ばわりされ、採点システムがおかしいと疑問を突き付ければ「素人は黙っていろ」と牽制されるのだから、言論の自由が認められている筈のこの国もまた、とっくに言いたいことも率直に言えない時代になっているのだろう。

とりあえずプロトコルから読み取れる今季四大陸女子シングルフリーの採点について、その特徴を見てみよう。

浅田選手の基礎点は58.37、加点は6.57だが減点が1.99あり、従ってGOEは4.58、最終的に技術点は62.95である。

対するワグナー選手の基礎点は56.10、加点は10.51、減点はなしなのでGOEはそのまま、最終的に技術点は66.61。

演技構成点は浅田選手61.42、ワグナー選手61.73とさほど差はないが、昨年グランプリシリーズのNHK杯での浅田選手の演技構成点は64.57だったのに対し、ワグナー選手は55.32だったのだから、GOEにしてもPCSにしてもワグナー選手は短期間の間に随分な跳ね上がりようで、数字の上ではまるっきり別人のような演技だったのかという印象である。
勿論これは全米選手権で63.32の演技構成点をもらっていることを前提にした評価ということなのだろうが、国内大会の戦績は本来非公式のものなのだから、アメリカ開催という地の利を生かして強引にねじ伏せたという感は否めない。実際、国際大会でのワグナー選手の今季ベストはグランプリシリーズロシア杯でのフリー55.54だったのだから、PCSは時と場所に応じて如何様にもどうにでもなるという証のようなものだろう。

今回はワグナー選手のベストパフォーマンスだったのだからという何とかの一つ覚えみたいな意見で、GOEやPCSの高さを説明する向きもあるが、それではスコアの数字と演技を観た印象を対比させて、ワグナー選手のクリーンなプログラムとやらを分析してみたい。

フィギュア295-2


【NHK杯ワグナー選手プロトコル】
8.50 7.90 0.60 3F+2T+2T
5.10 4.60 0.50 2A+2T
5.40 6.00 -0.60 3Lz e
3.57 3.00 0.57 FSSp4
3.40 2.00 1.40 ChSp1
3.34 2.70 0.64 LSp4
7.54 7.04 0.50 3Lo+2T
4.82 4.62 0.20 3S
2.26 3.96 -1.70 3Lo<
3.37 4.07 -0.70 3F<
3.51 3.30 0.21 SlSt3
3.64 3.50 0.14 CCoSp4
109.77 54.45 55.32 0

【四大陸ワグナー選手プロトコル】
8.90 7.90 1.00 3F+2T+2T
5.10 4.60 0.50 2A+2T
6.80 6.00 0.80 3Lz
3.36 3.00 0.36 FSSp4
4.00 2.00 2.00 ChSp1
3.70 2.70 1.00 LSp4
6.61 5.61 1.00 3Lo
5.72 4.62 1.10 3S
7.74 7.04 0.70 3Lo+2T
6.53 5.83 0.70 3F
3.94 3.30 0.64 SlSt3
4.21 3.50 0.71 CCoSp4
128.34 66.61 61.73 0


冒頭の三連続ジャンプから全米女王の名に恥じない、気迫のこもった演技だったことは間違いない。
続く2Aからの連続ジャンプはセカンドに3Tという構成だったようだが、アクセルのバランスが崩れてNHK杯同様の2Tになる。これが成功していたら195点を超えていたということだから、ワグナー選手もまだ伸びしろがあるというプログラムである。

次のルッツジャンプはエッジエラー、だがこの大会は何故かルッツの基準が甘く、ジャン選手もエラー判定されていない。この二選手が判定されないのだから、浅田選手のルッツもエラーにする訳にはいかないだろう。だがワールドではどうか。
試合ごとに判定基準が変わるのだから、単純にeが付かなくなったと喜べないのが今のフィギュア採点ということなのだろう。

後半のジャンプはイーグルからの3Loがコンビネーションにならず、サルコウの後のジャンプでリカバリーしている。最後の3Fもきれいに決まって、結局NHK杯では回転不足をとられたループとフリップが認定された辺り、技術力の進化が見られたということのようだ。

パワフルでクリーンなジャンプなのだから加点が大きくて当然、という理屈が成り立つのが今のルールの常識なのかも知れない。だがあまりにもその振れ幅の基準が曖昧だ。

同じアメリカ選手のジャンの加点が7.84、エッジエラーが明らかなルッツにさえ0.70のGOEをもらっているのだから、これらの加点盛りをホーム・アドバンテージと呼ばずして何と言うのだろう。
無論、長い間身体の成長期で苦心していた末の復活で、柔軟性を生かしたポジションが堪能できるスパイラルやパールスピンなど見応えもあり、ジャンプもノーミスにまとめてはいたが、慎重さが先に立って後半はスピードが落ち、コンビネーションとシットのふたつのスピンに関しては軸がぶれて、浅田選手を凌駕する技術点に相当するとはとても言えない出来だった。

フィギュア295-3


さてそこで、続いて浅田選手のプロトコル。

【NHK杯浅田選手プロトコル】
4.09 3.30 0.79 2A
7.80 7.10 0.70 3F+2Lo
5.20 6.00 -0.80 3Lz e
4.50 3.50 1.00 CCoSp4
8.84 8.14 0.70 2A+3T
6.38 7.48 -1.10 3F<+2Lo<+2Lo
5.02 4.62 0.40 3S
3.29 2.50 0.79 SSp4
4.23 3.30 0.93 SlSt3
4.91 5.61 -0.70 3Lo
3.64 3.00 0.64 FCoSp4
3.30 2.00 1.30 ChSp1
125.77 61.20 64.57 0

【四大陸浅田選手プロトコル】
4.71 6.00 -1.29 3A<
7.60 7.10 0.50 3F+2Lo
5.30 6.00 -0.70 3Lz
4.50 3.50 1.00 CCoSp4
8.84 8.14 0.70 2A+3T
10.29 9.79 0.50 3F+2Lo+2Lo
1.46 1.43 0.03 2S
2.93 2.50 0.43 SSp4
4.30 3.30 1.00 SlSt3
6.01 5.61 0.40 3Lo
3.71 3.00 0.71 FCoSp4
3.30 2.00 1.30 ChSp1
124.37 62.95 61.42 0


NHK杯から比べるとルッツのエラー判定もなく、3A以外の回転不足もないクリーンなプログラムが完成されてきたという印象である。だが実際には後半のサルコウが二回転になったため、基礎点、GOEとも大きく響き、また大きなミスのないジャンプに関しても加点幅が低く抑えられた上、ロシア杯ではレベル4が獲れたステップもNHK杯と同じレベル3に留まっている。

フィギュア295-5

フィギュア295-6

フィギュア295-7

ジャンプ、スピン、ステップ、そしてコレオスパイラルの各項目について、ワグナー選手と比較してみると、以下の通り。

【ワグナー選手】
ジャンプ:47.40 (41.60+5.80-0.00)
スピン :11.27 (9.20+2.07-0.00)
ステップ:3.94 (3.30+0.64)
コレオスパイラル:4.00 (2.00+2.00)

【浅田選手】
ジャンプ:44.21 (44.07+2.13-1.99)
スピン :11.14 (9.00+2.14-0.00)
ステップ:4.30 (3.30+1.00)
コリオスパイラル:3.30 (2.00+1.30)


浅田選手がワグナー選手を上回ったのはともにレベル3だったステップの項目のみ、これでは優勝をさらわれても致し方ないが、数字の結果だけを見て、ワグナー選手は素晴らしくレベルアップした、あるいは浅田選手の方は「普通の選手」になり下がったと認識する向きがあるのは、まさに単純な採点マジック効果というものだろう。

浅田選手のジャンプ構成で最も注目すべきは無論、トリプルアクセルだが、これが回転不足判定されるという現状をどのように考えればいいのか。

このジャンプを構成に組み込むという点については二通りの見方があり、ひとつは回転不足でGOEの減点をされても2Aの満点評価4.8に近づくのなら挑戦すべきという意見、もうひとつは3Aに集中する精神的負担でほかの演技要素に余裕がなくなることを懸念する考え方である。
四大陸での演技も大筋では高地の影響が体力を奪ったと考えられるが、3Aを入れた高難度のジャンプ構成がミスを誘ったという捉え方もあるだろう。

ワグナー選手がノーミスだったのは彼女のジャンプ構成の難易度が低いからというのはあまりにも穿った見方で決して正当な理由とは思わないが、あえて比較するならジャンプに限らず、プログラム全体の構成バランスの質や難度が高いのは、基礎点から鑑みても浅田選手の側だろう。
この技術的側面の判定で物差しとなりベース評価であるべき基礎点をいともあっさりと無意味にし、ジャッジのいわゆる主観によって簡単に逆転させてしまう、技の「質」を判定するGOE、この良し悪しはもうこれまでも散々述べてきたが、こうした胡散臭いシステムがまかり通っている以上、浅田選手の崇高な挑戦が常に大きなリスクを伴うものであることは間違いないのだ。

3Aがクリーンに決まって、サルコウが本来の三回転でまとまれば、浅田選手のフリーは六種類の三回転ジャンプを含む、この上なく無敵のプログラムとして完成されるとは思うが、果てしないフィギュア競技の限界に近づく彼女のチャレンジがどれほど真っ当に評価され、その歴史的価値が的確に認識されているのかと思うと、やはり暗雲たる心もちになる。

浅田選手が四大陸ショートで跳んだトリプルアクセルはやはり回転不足判定で、着氷時のフットミスでも(転倒でもないのに)大きく減点され、基礎点6.00から-2.29で3.71という得点にしかならず、これは同じショート演技の2Aの中でトップの得点4.09をあげた村上選手、次いで3.94のワグナー選手、ラコステ選手から数えると四位というランキングである。
フリーではさすがに減点されても4.71をもらっているが、このジャンプが実際「成功」だったかどうかという限りなく不毛に近い議論はさておいても、はじき出された点数値は一体このジャンプが持つ技術的価値に対して、どれほど妥当と言えるのか。

ほかの女子選手がほとんど跳べない(跳ばないのではなく跳べないのだ)三回転ジャンプ、時には男子選手でさえ転倒し、回転不足も怪しい特別なジャンプであることは間違いないのだ。
頭から鋭角に落ちるような怖ろしさ、回転数が多いとスピードの速さもいや増すから氷上に身体ごと叩きつけられるような錯覚で安易に挑戦することも難しいと聞くジャンプであるにも拘らず、数字の上ではダブルアクセルに毛が生えた程度、もしくはダブルアクセルほどの値打ちもないと切り捨てられているようなジャンプに、浅田選手がひとり無駄にこだわり続けているという風にしか見えない現在の採点基準は、フィギュア競技にどんな未来を描こうとしているのだろう。

正直なところ、ISUも四大陸選手権のジャッジもそれほど深く、この競技の将来性や人気回復のことについて国際的視野で考えているという訳ではないのだろうというのが、まさきつねの印象だ。

興味深かったのはシカゴトリビューンで(一部では選手に対する偏狭的意見で悪名高い)ハーシュ記者が書いていた記事なのだが、彼の見方が今回も偏見的であるかどうかはさておき、いささかショッキングな内容であったことは間違いないのだけれど、タイトルも「全米スケート連盟はいかにシズニー選手を冷遇したか―不合理な決定で彼女は四大陸選手権から外された」という穏やかならぬ内容だった。以下に、記事から重要な部分の抜粋を拙訳して掲載する。

     *

How U.S. Figure Skating snubbed Czisny
An irrational decision kept her from Four Continents
Philip Hersh
February 13, 2012

フィギュア295-10


妥当に判断して、アリッサ・シズニーはここ二年間、全米女子の中で最優秀の選手に位置付けられることは疑いないだろう。

今季全米選手権では二位、昨季は一位。2011年世界選手権ではアメリカ女子選手の中で最高位。昨季のグランプリシリーズではアメリカ女子では最も素晴らしい戦績を収め(ファイナルで優勝し)、今季はアメリカ女子のうち唯一ファイナルに駒を進めた選手である。

しかし全米フィギュアスケート連盟の国際委員会にまします得難き精神は、この日曜日コロラドスプリングスで閉幕した四大陸選手権に彼女を出場させまいとする理由を、何とかこじつけて捻り出してきたようだ。

二週間前行われた全米選手権の後、四大陸選手権に出場する三名が選出されたとき、私はシズニー選手の名前が上がらなかったのは、三月二六日から四月一日までフランスのニースで開催される世界選手権に向けて、熾烈な準備を始める前にひと時の休養を取りたいという彼女自身の要望があったのだろうと考えた。

ところが月曜になって私は、彼女は四大陸選手権に出たがっており、あろうことか昨年の八月には「チャンプス・キャンプ」という全米フィギュアスケート連盟主催のセミナーに参加した後、自宅のあるデトロイトからコロラドスプリングスまでの周遊計画案を練っていたという話を耳にした。これは彼女の勝手な思い込みではなく、出場資格さえ与えられればそのように準備できたはずの当然の要望だった。全米選手権が終了した後で彼女は、連盟の役員たちに自分の希望を連絡していたのである。

連盟がシズニーの代わりに、全米選手権第三位と四位のアグネス・ザワツキーとキャロライン・ジャンを四大陸選手権に派遣することを決定した瞬間の、彼女の心中を考えてもみるがいい。

「少しショックだったわ」と月曜日に電話で彼女は私に語ってくれた。

「連盟は理由を明らかにしませんでした」と彼女のコーチであるジェイソン・タンジェンもまたそう教えてくれた。

そこで私は連盟の国際委員会委員長を務めるダグ・ウィリアムズに電話をし、事の詳細について尋ねてみた。

「私たちは委員会で充分な検討をしたんだよ」とウィリアムズは答えてくれた。「私たちは女子選手たち全員に均等な機会を与えること、そしてソチと来シーズンのグランプリシリーズに向けて、ふさわしい出場選手を決めるための戦略を考慮したんだ」

彼の答えが、質問に対する答えになっていないことがわかるだろう。四大陸選手権にシズニー選手を派遣しない、不合理性についての説明にはまるきりなっていないからだ。

目下のところ連盟の四大陸選手権への派遣選手選考基準に目を通している誰もが、それがたとえ今回はアシュリー・ワグナーが選ばれているとしても全米選手権の勝者に対し出場枠を保証するものではなかったのだから、シズニーがまずアメリカチームの第一候補として名前が上がるべきだったと口にしていることは注目に値すると思う。

(中略)

今回の四大陸選手権の結果において、三人の参加選手のひとりが抜群の出来(ワグナーが金メダル)、もうひとりが驚異の出来(ジャンが銅メダル)、最後がまあまあの出来(ザワツキーが六位)だったとしても、シズニーが出場するに値したということに何の違いもない。彼女を邪険につまみ出すような決定は、そもそも馬鹿げていたのだ。

「アリッサは委員会の議論でも有力候補ではあったんだよ」とウィリアムズは言う。「彼女は度外視されていたわけでも、選考選手から落とされたわけでもないんだ。だぶん、世界選手権が近づいてきたら別の国際大会に派遣されるよ」

これから世界選手権に近づく日程の中で予定されている国際大会は、三月八日から十一日までオランダで開催されるチャレンジカップだ。ということはシズニーにとって、非常に長い道中になると同時に、世界選手権が始まるまでの長期間ヨーロッパに逗留することを意味するような日どりで行われる大会に出場するということになる。しかもこの国際大会は、昨年は開催中止になったような取るに足らない位置づけのイベントなのである。

それでもアリッサ・シズニーはやはりアリッサ・シズニーだった。誰からも礼節をわきまえた選手のひとりと知られている彼女は、連盟の下した決定について詳しく説明を求められたとき、きわめて道義的な解釈を述べている。

「世界選手権へ向けて、布石を打つ機会が与えられたのだと思うわ」と彼女は語った。

実はシズニーは先週、コロラドスプリングスに練習拠点の一部を置いていたのだ。彼女のふたりのコーチは共に教え子のアダム・リッポンに同行して、コロラドスプリングスに常駐していたためだ。四大陸選手権に参加しないシズニーは無論自腹で、飛行機の切符を購入した。そして全米オリンピック・トレーニングセンターでの滞在費用も彼女宛で請求書が来るだろう。

彼女はスケート連盟から何ひとつ手心を求めているのではない。

それどころか、代わりに彼女に与えられたのは火の出るような平手打ちだった。


※※※※※

ハーシュ氏の記事は辛口の上に選手の好き嫌いが如実に滲んで、時としてその偏狭さが内容の信憑性を疑わしくさせるのだけれど、連盟のような権威に対する辛辣な批判精神には正当なジャーナリズム魂が感じられる。

日本もアメリカもISUの息がかかった組織にはどこかいかがわしさがあって、採点基準も選考基準も連盟運営にも逐一不透明さが露呈するのだから、お偉方の真の狙いはどこにあるのかさっぱり分からないが、いずれにしても、競技のためでも選手のためでも、ましてやファンのためでもない機構が大手を振って、金権主義の独裁体制の中で身勝手なシナリオを練り上げているという気がする。

かといって、根も葉もないのに伏魔殿の陰謀だの利権の巣窟だのと強い言葉で煽って、連盟のあれもこれも悪い、何もかもがおかしいと誰にも何にも得にならず建設的でもない空疎な言葉を振り回す活動家のような暴論でファンや一般観衆を惑わすのも、あまりにも偏執的で無意味な行為であることは確かなのだ。

重要なのは現在行われている競技のルールもジャッジによるその運営も、すべて人間が定め、管理し、人間が遂行しているものである以上、絶対的な正義というものはなく、意図的であろうとなかろうとそこには必ず間違いが点在し、それによって傷つき、不利益を被っている選手や人間がいるということを常に心にとめておくべきだということだ。

人間は必ず間違いを犯す生きものなのだ。かといって許されるという訳ではないが、間違いを正すことが出来るのも人間である以上、おかしいものはおかしいと指摘する周囲の目も大切で、そして間違っているものを是正してゆく努力もまた大事なことなのだ。

まさきつねは、今回の四大陸選手権女子シングルはどんなに現行ルールに沿ってジャッジが判定した結果だったとしても、2008年以来優勝から遠ざかり、二人以上の自国選手を表彰台に送ることが出来なかったアメリカが、コロラドスプリングス開催という地の利を最大限に生かしてもぎとったホーム・アドバンテージの戦績に過ぎず、それはすなわち、空席の目立った会場の様子からも一目瞭然だったアメリカのフィギュアスケート離れという深刻な事態からの回復を目論む連盟の、付け焼刃のような手立てにほかならないという風に受けとめている。

フィギュア295-9


勿論、たとえば浅田選手のサルコウが三回転だったら、あるいはアクセルがもっと文句のつけようのない精度を見せていたら、ワグナー選手同様の見た目ノーミス演技だった場合には、いかなアメリカと言えどメダルの色は違っていたかも知れない。
だがスポーツで、「たられば」を語っても仕様がないことは誰もが承知のことだろう。

今、確信できることは、四大陸に参加が許されなかったシズニー選手同様、心中に渦巻く悔しさを浅田選手もまた噛み締めているということ、そしてその悔しさはおそらく、バンクーバー五輪で銀メダルに甘んじなくてはならなかった時にひとしく、世界選手権でのリベンジを誓う心に拍車をかけているのではないかと思う。

不正が行われているのではない。だが不当に扱われている選手や演技があることは間違いないのだ。
その不当性、不合理性を糾弾し得るのは何よりも、選手たちの公明正大で礼節正しい生きる姿勢、そしてその演技の限りなく自由な美しさしかない。

清く透明な彼女たちの精神が垣間見えるような演技の尊い美しさが、彼女たちを縛り付けてその羽根をもぎ取ろうとする堅苦しいルールや決まりや不透明なジャッジやお偉方の決定から、いつか彼女たちを解放し、強く羽ばたく空の高みへ彼女たちをいざなうだろう。

そしてその瞬間に立ち会ってこそ、ファンのこころもまた競技の最も深い深淵に触れ、いつしか選手たちの描いたエッジ痕の上にふわりとひらいてゆく花のような蝶のようなイマージュの群れに静かに寄り添って、冷気の漂う氷上で熱気に充ちた選手の気迫とその血のぬくもりにともに溶けてゆきたいと願うだろう。


フィギュア295-4

フィギュア295-8


つねに高くあり人の眼と手と記憶より遠くにあるもの

たえず陰影(かげ)ふかき繁みにありその相(すがた)見えざるもの

静かなところより声はこぼれやさしき愛のはぐくまるるもの
(村野四郎『鳥の巣』)

フィギュア295-11


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四大陸選手権2012男子シングル

フィギュア294-1

【四大陸選手権男子結果総合】

1: パトリック・チャン (カナダ) 273.94
2: 高橋大輔 (日本) 244.33
3: ロス・マイナー (米国) 223.23
4: アダム・リッポン (米国) 221.55
5: 無良崇人 (日本) 217.16
6: デニス・テン (カザフスタン) 210.03
7: 町田樹 (日本) 208.04
8: ケビン・レイノルズ (カナダ) 203.26
9: ミーシャ・ジー (ウズベキスタン) 196.53
10: 関金林 (中国) 196.53
11: 宋楠 (中国) 190.51
12: クリストファー・カルザ (フィリピン) 172.60
13: リチャード・ドーンブッシュ (米国) 164.29
14: ジェレミー・テン (カナダ) 159.22
15: キム・ミンスク (韓国) 157.14
16: カム・カンチャン (韓国) 157.14
17: 呉家亮 (中国) 156.62
18: アブザル・ラキムガリエフ (カザフスタン) 153.63
19: ブレンダン・ケリー (オーストラリア) 144.26
20: マーク・ウェブスター (オーストラリア) 138.87
21: 朱育加 (台湾) 134.97
22: ルイス・マネッラ (ブラジル) 133.07
23: ケビン・アルベス (ブラジル) 132.94
24: ニコラス・フェルナンデス (オーストラリア) 131.76

まずは四大陸選手権男子シングルのショート演技を観た外国人記者の記事からご紹介。

     *

フィギュアスケートは修辞的疑問(反語的問いかけ)の下に堕ちている
Figure skating is under rhetorical questions
February 10, 2012
By Vladislav Luchianov

ワールドアリーナの半分以上空席となっているありさまを見渡して、私はこの元凶は何か懸命に考えようとした。コロラド・スプリングスは観光地として申し分ない場所で、スケート観戦にも快適なところなのに、この体たらくは本当に悲しむべきことだ。スケート関連の興行態勢としてはぬかりはないのに、男子シングルのショート・プログラムが終了した時、その事由は明らかになった。

フィギュア294-2

私はすべてのすべてのスケーターを尊敬しているけれど、報道という仕事はその切り口が危機的な問題点に接触することもあり得るということも信じている。これは私個人の考え方で、それ以上のものではないのだけど。

さて、パトリック・チャンは2012年四大陸選手権のショートで、新たにシーズンベストスコアを更新し、87.95点で現在首位に立っている。『テイク・ファイブ』の演技は最初の四回転ジャンプで酷く躓いたが、その後のトリプルアクセルとトリプルルッツ―トリプルトゥループの連続ジャンプで立て直した。技術点は45.73、演技構成点は42.22、いつもながら夢のような演技構成点を与えられている。

Skating Skills:from 8.75 to 9
Transition: from 7.75 to 8.50
Performance: from 7.75 to 8.50
Choreography: from 8.50 to 9
Interpretation: from 8.50 to 9

本当に凄い得点だ。そうだろう? その上驚くべきことに(実際のところ私は、スケート関係者がそれを驚くべきことと認識しているのかどうか、疑っているのだが)、審判員の面々はチャンが演技冒頭で失敗した四回転を、転倒として判定していないのだ。彼の体重のほとんどは彼の片手が支えていたのだから、それは転倒であるはずだ。それなのに、彼はこの演技で、何であの高得点(シーズンベストだよ!)をもらえるのか、説明出来るものなら誰か頼みたいものだよ。転倒によってプログラム全体のイメージはすでに幻滅しきってるというのに、どうしてInterpretation(曲の解釈)で9点台が獲れるのか、誰か説明がつくのかい? 転倒したプログラムでどうしてChoreography(振付)でも9点台になるのか、こんなのは修辞的疑問に過ぎないと思うけどね。

それでは、チャンのショート演技を、彼の主な好敵手である高橋大輔のショート第三位の演技と比べてみよう。
高橋のプログラム『Garden of Souls』の演技構成では、トリプルアクセル、トリプルルッツ―トリプルトゥループの連続ジャンプ、そしてレベル4の二つのスピンが際立っていたけれど、四回転トゥループではアンダーローテの転倒判定だった。大輔は、ショートのスコアで82.59点を獲得、内訳は技術点で41.64、演技構成点で41.95。彼もまた、四回転で転倒したということだ。そうだよね? よし。でも、チャンの転倒と彼の転倒との大きな違いは、高橋の転倒は判定され、チャンのは判定されなかったということだ。そこが違うってことだよ! 論理的疑問として不可解だろ? またしても修辞的疑問なのかな。

高橋大輔は、私の見解だけど、表現力に充ち溢れた演技を披露して、洗練された音楽性の高い感覚で、プログラムのイメージを完璧に解釈していた。これは私一人の独善的な意見ではないよね。多くのスケート技術の専門家たちが口を揃えて、高橋の演技は技術的にも芸術的にも本当に素晴らしかったと言っている。もうひとつ、彼のコンポーネンツ(演技要素)はあらゆる点で、鮮明で明快だし、よく了解できるということだ。「我々には判るのさ。それで充分だろ」とかのたまう一部の審判員にだけ、そうだということではなくね。ところで彼のショートの演技構成点を見てみよう。

Skating Skills: from 8.50 to 9
Transition: from 7.50 to 8.50
Performance: from 7.75 to 8.75
Choreography: from 7.75 to 8.75
Interpretation: from 8.25 to 9

ここで今一度疑問点が湧いてくる―高橋の5コンポーネンツは本当にチャンよりも低いと思うだろうか? 私の答えはNOだ。そして私は、多くの専門的指導者や、振付師たちが私に同意見だということを確信している。

同じく日本から出場しショート第二位に着いた無良崇人は、『レッド・ヴァイオリン』の演技構成に沿って、今夜の大会で唯一、四回転―三回転の連続ジャンプを決め、そしてトリプルアクセル、トリプルルッツを熟した選手だった。彼のスコアは83.44、技術点は47.22、演技構成点は36.22。才能はあるけれどまだそれほど経験があるとはいえないスケーターが披露したのは、自信に充ち溢れ、クリーンでとても素晴らしい演技で、場内を大いに驚かせた。彼がライバルたちに匹敵する高いプログラム・コンポーネンツを持ちあわせていないことは致し方ないことだが、それもしばらくのことだと私は確信する。

大いなる疑問が残され、そしてそれに対する決定的な解答が得られないとなると―、フィギュアスケートがその人気を回復することは残念ながら難しいと言わざるを得ないだろうね。


※※※※※

フィギュア294-3


日本の選手に対する疑問を、日本の記者が書いた記事ではない。誰がどこの選手であるかどうかに関わらず、誰もがあからさまな審判の仕打ちに同じ疑問を抱き、フィギュアスケートの未来に同じ絶望を感じているということだろう。

もう今までも何度も繰り返してきたことだが、順位が妥当でさえあれば、どんな得点差だろうが、どんな判定だろうが構わないということは、スポーツ競技である以上、許されるべきことではないのだ。
ましてや世界のトップ選手が集う大会で、独走態勢で王者に君臨する選手にジャッジが下した判定となると、誰もが注目し、誰もがその得点の不健全さに厳しい批判の目を向けて然るべきことなのだ。

尻餅をついたか、お手付きだったかは関係ない。転倒は転倒だ。(ロステレコムでの羽生選手の場合は、転倒判定だった。チャンのお手付きと何の違いがあるのだろう?)これがジャッジの意図的であろうがなかろうが、同じ状況が一方はマイナス判定され、もう一方は判定されない。そしてこんな馬鹿馬鹿しいまでに分かり切ったアンフェアを、日本のマスコミもスケート関係者も一切取り上げようとしないのだ。それどころか、絶対王者チャンと最初から冠付きで賞賛して憚らないのだから、もう今さら何をかいわんやということなのだろう。

とはいえ、フリーでのチャン選手の演技は四回転の連続ジャンプに単独の四回転、そしてトリプルアクセルと、技術的にも高い上に彼らしい清々しさを感じさせる好演だったことは間違いなく、高橋選手の立場から考えれば、今回の勝負はワールドを念頭に、まだ自分の伸びしろと磨きどころ、必要な課題を確認するための前哨戦としてとらえ、すでに完成の域にあるチャンにあえて挑戦しての敗北という程度に受けとめておくべきだろう。

実際、チャン選手のトリプルアクセルの着氷もステップアウトしたトリプルルッツも、ジャッジの得点が示すほどの出来映えとは到底思えないものだったし、演技構成点に関しては外国人記者の記事に書かれていた通り、高橋選手と5.30の差がつくような表現の巧みさがあるとは到底納得し難い部分がある。
何より、他選手の追随を許さない上質のスケーティングで音楽の叙情性を表現するという点では確かに、今大会ずば抜けていたチャン選手の演技であるにも拘らず、ましてや二つの四回転ジャンプという圧巻の見どころもあった筈なのに、どこか白けきった会場内の空気と熱気の感じられない拍手には、彼を完全無欠の裸の王様に祭り上げたジャッジと観客の温度差に心底怖気が立つものを感じたし、ホームリンクでさえあからさまな彼の不人気ぶりにはいささか同情を覚えざるを得ないものがあった。

逆に言えば高橋選手にとって、技術の精度を高めていけば順当に高い評価を積んでいける期待値が確認できただけ、チャン以上の余裕があり、大差の敗北であればあっただけ、そのパフォーマンスの魅力と点差との違和感が観客に「修辞的疑問」として残った分、チャンの立ち位置よりも至福であると言えるだろう。

五位の無良選手、七位の町田選手にとっては今大会が、国際大会の経験を積み、一方でジャッジや観客に新しい才能の萌芽を印象付ける機会となったことは間違いない。ふたりともフリーでは多くの課題が見つかったと思うが、ショートではともに水準の高いパフォーマンスで観客を魅了した。無良選手のジャンプの質は、絶対王者のチャンに勝る高さだったろうと思うし、町田選手の流れと情熱を感じさせるショートの出来は、さすがのジャッジからも演技構成点で7点台を引き出す魅力と若々しさに溢れていた。

日本は現在の状況からすると、もしかしたら女子よりも男子の方が即戦力になるという点では層が厚いのではないのかと思うのだが、ただこうしたいわば中堅の選手たちが高橋選手や小塚選手、織田選手といったトップレベルに今一歩及ばず、どこか物足りなく感じさせるのは、経験値が足りない故の表現力の拙さや洗練さというよりも、会場全体の空気を一瞬にして自分の色に染めかえるほどのオーラというか、粗削りでも強引な吸引力を持った世界観とそこへいざなう異次元の個性という部分のような気がする。

同じ若手でも、今季ワールドに出場する羽生選手にはこの異次元の魅力が生まれながらなのか、すでに備わっているのだろう。とはいえ小塚選手などは、バンクーバー五輪の前後辺りから急速に個性を開花させ、一気に超絶の次元に駆け上った感があるから、無良選手や町田選手にしても、またほかの選手にしても、いついかなる瞬間に開眼するとは限らないと思う。

大事なのはどんなに泥臭くても、どんなにもたついて一進一退を繰り返しても、自分の行き着きたいところを見据え、歩みを止めないことなのだろう。
大切なのは、どんなにジャッジが絶対王者の影をちらつかせ、優秀なる模範の右へ倣えをそれとなく示唆してきたとしても、順位や得点狙いでなりたくもない他人の模倣やリスクを避けるような安易なやり方を選ぶ真似をしないということなのだ。

スポーツの結果は常に残酷なものだ。

だがその残酷さを回避する選手や競技に対して、観客はもっと残酷なお見限りをする。

更なる進化を期待されて、観客たちから祝福の拍手を受ける選手たちは、その豊穣な未来が展望できる限り何よりも幸福といえるだろう。


フィギュア294-4


我は張り詰めたる氷を愛す。
斯る切なき思ひを愛す。
我はその虹のごとく輝けるを見たり。
斯る花にあらざる花を愛す。
我は氷の奥にあるものに同感す、
その剣のごときものの中にある熱情を感ず、
我は常に狭小なる人生に住めり、
その人生の荒涼の中に呻吟せり、
さればこそ張り詰めたる氷を愛す。
斯る切なき思ひを愛す。
(室生犀星『切なき思ひぞ知る』)


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風の名前

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女子最終結果
http://www.isuresults.com/results/wc2011/CAT005RS.HTM
女子SP結果
http://www.isuresults.com/results/wc2011/SEG006.HTM
女子SPジャッジスコア
http://www.isuresults.com/results/wc2011/wc2011_Ladies_SP_Scores.pdf
女子FS結果
http://www.isuresults.com/results/wc2011/SEG007.HTM
女子FSジャッジスコア
http://www.isuresults.com/results/wc2011/wc2011_Ladies_FS_Scores.pdf

【世界選手権女子結果総合】

FPl. Name Nation Points SP FS
1 Miki ANDO JPN 195.79 2 1
2 Yuna KIM KOR 194.50 1 2
3 Carolina KOSTNER ITA 184.68 6 3
4 Alena LEONOVA RUS 183.92 5 4
5 Alissa CZISNY USA 182.25 4 5
6 Mao ASADA JPN 172.79 7 6
7 Ksenia MAKAROVA RUS 167.22 3 9
8 Kanako MURAKAMI JPN 167.10 10 7
9 Kiira KORPI FIN 164.80 9 8
10 Elene GEDEVANISHVILI GEO 156.24 15 10
11 Sarah HECKEN GER 155.83 12 11
12 Rachael FLATT USA 154.61 8 14
13 Cynthia PHANEUF CAN 152.78 13 12
14 Mae Berenice MEITE FRA 150.44 11 15
15 Joshi HELGESSON SWE 149.08 16 13
16 Amelie LACOSTE CAN 144.76 14 18
17 Viktoria HELGESSON SWE 142.52 24 16
18 Bingwa GENG CHN 140.78 19 17
19 Ira VANNUT BEL 138.28 17 20
20 Juulia TURKKILA FIN 136.68 22 19
21 Cheltzie LEE AUS 133.65 18 21
22 Elena GLEBOVA EST 124.78 20 22
23 Irina MOVCHAN UKR 123.15 23 23
24 Jenna MCCORKELL GBR 121.76 21 24
25 Sonia LAFUENTE ESP FNR 25
26 Karina JOHNSON DEN FNR 26
27 Bettina HEIM SUI FNR 27
28 Dasa GRM SLO FNR 28
29 Belinda SCHヨNBERGER AUT FNR 29
30 Viktoria PAVUK HUN FNR 30

女子シングルの結果が出て一夜が明け、多くのひとがさまざまな感慨を噛みしめておられることだろう。まさきつねもいろいろに言いたいことが山積みなのだが、まずは田村岳斗さんがブログで世界選手権女子フリーの感想を書いておられたので、そちらからご紹介しよう。


【田村岳斗 華麗なる舞】

http://www.jsports.co.jp/blog/tv/skate/yamato/log/competition/post-49/

安藤選手、優勝おめでとうございます。今シーズンの安定した滑りが一番いい結果につながりました。さすがに今日は気持ちが入れ込んでいたのか、少しミスが出て、ダブルアクセル+トリプルトウループのところで2回転にはなりましたが、最小限のミスで抑えたのは、シーズンを通して戦ってきたからこそだと思います。どんな状況でも自分の滑りができる精神力は頼もしく思えました。
2位のユナ・キム選手は、3回転+3回転もしっかりと決めるなど、1つ1つの技術は高さを持っていますが、4分間を滑り切る集中力の部分で、シーズンを戦い続けている選手との差が出ました。優勝を分けたのは、その差だったと思います。
浅田選手は、6位とメダルには届きませんでしたが、次の五輪を見据えて、苦手なジャンプにも取り組んでいる積極的な姿勢が感じられました。例えばユナ・キム選手はループ、ロシアの選手やコストナー選手はルッツなど、苦手なジャンプを外し、得意なジャンプで得点を取りにきていましたが、浅田選手は、現段階であまり得意ではないルッツ、サルコウも加えた6種類のジャンプをすべて跳んできました。得点だけを狙うなら、プログラムを変えて、サルコウをループにするなどもできるかもしれませんが、もっと先を見たプログラムだったと思います。そうした取り組みは今後に生きて来るはずです。
8位の村上選手も1つミスがありましたが、みんなそこからスタートしています。SPでは元気がないようにも感じましたが、フリーでは思い切り滑ってくれました。彼女もまた、2014年が楽しみな選手です。
試合は終わりましたが、まだエキシビションがあります。僕もJ SPORTSで解説をします。皆さんと同じようにエキシビションを楽しみたいと思っています。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


同じ氷上で苦難を味わってきたひとからの、温かいこころが滲む言葉の数々である。そしてその言葉の端々に、決して汚くも厳しくもない表現で、それぞれの選手が抱えている課題への示唆と、来季に繋がる光明のような部分をしみじみと響かせておられる。

特に、今大会の順位や得点には関係なく、浅田選手の今季の取り組みをアスリートとして正当に評価され、未来への残響とされているのはうれしい限りである。
復活への一歩、諦めていない未来へ向かって、今出来る精一杯を彼女は尽くしたのだ。それを、かつて本田選手とともに世界を目指し、今の男子シングル黄金時代の礎を築いたアスリートがしっかりと見届けてくれている、わかる人はわかってくれているということが何より大事なことなのだ。


そして次に、女子シングルのFS演技に付けられたPCS(演技構成点)が以下の通り。

66.87 8.50 8.07 8.36 8.36 8.50 Yuna KIM 2位(FS)
64.63 8.11 7.89 8.11 8.07 8.21 Carolina KOSTNER 3位
64.46 8.11 7.79 8.14 8.07 8.18 安藤美姫 1位
61.82 7.64 7.50 7.79 7.75 7.96 Alena LEONOVA 4位
61.13 7.68 7.46 7.64 7.64 7.79 Alissa CZISNY 5位
60.08 7.54 7.25 7.54 7.61 7.61 Ksenia MAKAROVA 9位
59.94 7.61 7.32 7.50 7.46 7.57 浅田真央 6位
58.06 7.32 6.93 7.29 7.32 7.43 Kiira KORPI 8位
56.62 7.14 6.89 7.11 7.04 7.21 村上佳菜子 7位
53.22 6.75 6.36 6.75 6.61 6.79 Cynthia PHANEUF 12位
51.94 6.61 6.32 6.46 6.57 6.50 Rachael FLATT 14位
50.97 6.64 6.04 6.43 6.29 6.46 Elene GEDEVANISHVILI 10位
50.22 6.39 5.96 6.32 6.29 6.43 Sarah HECKEN 11位
48.20 6.14 5.89 5.96 6.07 6.07 Amelie LACOSTE 18位
47.55 6.18 5.71 5.93 5.96 5.93 Mae Berenice MEITE 15位
47.18 6.04 5.71 5.89 5.96 5.89 Viktoria HELGESSON 16位
46.36 5.93 5.43 5.86 5.75 6.00 Joshi HELGESSON 13位
44.07 5.43 5.36 5.57 5.57 5.61 Juulia TURKKILA 19位
42.96 5.57 5.14 5.46 5.36 5.32 Bingwa GENG 17位
42.74 5.46 5.18 5.32 5.36 5.39 Ira VANNUT 20位
42.60 5.61 5.18 5.29 5.36 5.18 Cheltzie LEE 21位
42.22 5.50 4.96 5.32 5.29 5.32 Jenna MCCORKELL 24位
41.21 5.32 4.86 5.18 5.18 5.21 Elena GLEBOVA 22位
37.60 4.89 4.50 4.79 4.71 4.61 Irina MOVCHAN 23位

ちなみにSPのPCSも参考のためにSP10位の村上選手までに限り、上げておこう。

32.94 8.29 8.00 8.21 8.25 8.43 Yuna KIM 1位(SP)
31.38 7.93 7.61 7.96 7.86 7.86 安藤美姫 2位
30.74 7.82 7.50 7.75 7.68 7.68 浅田真央 7位
30.26 7.57 7.32 7.64 7.57 7.71 Kiira KORPI 9位
30.23 7.68 7.32 7.61 7.46 7.71 Carolina KOSTNER 6位
30.14 7.50 7.25 7.71 7.57 7.64 Alissa CZISNY 4位
29.09 7.29 7.00 7.46 7.25 7.36 Ksenia MAKAROVA 3位
29.09 7.36 7.00 7.29 7.29 7.43 Rachael FLATT 8位
28.20 7.00 6.71 7.14 7.11 7.29 Alena LEONOVA 5位
27.51 7.00 6.61 7.00 6.89 6.89 Cynthia PHANEUF 13位
26.74 6.75 6.54 6.71 6.68 6.75 Elene GEDEVANISHVILI 15位
26.35 6.54 6.36 6.64 6.61 6.79 村上佳菜子 10位


こんなPCSに何の意味がというのは、もう繰り返しても詮ない話と分かっている。それを承知で言えば、台乗りさせたい三選手のFSでのPCSが上位にあるのだ。そして中でも、キム選手だけがあいかわらずすべての項目で8点台、SPでは7点台を超えられなかったコストナー選手と安藤選手が、ようやく4項目で8点台に乗ったが、いずれの項目でもキム選手を超える数値に至っていない。

一年間、国際大会に参加もせず何の実績もない選手が、ミスを重ねた演技をしようがするまいが、9点台のPCSを振る舞われ、一年間こつこつ試合に出て頑張ってきた選手には、昨季の戦績すら考慮しない低いPCSが押し付けられる。

SPでは上から三番目のPCSを貰っていた浅田選手はFSでは上から七番目、ISUは彼女が昨季の世界女王だということすら忘れているのかも知れないけれども、今季においても、GPSでは確かに成績の振るわなかった彼女だが、つい先日行われた四大陸選手権では二位という戦績を残しているのだ。

そしてSPとはうって変わって、FSのPCSではこの浅田選手を上回るロシアの二選手、彼女らのPCSが高いのはホームタウンデシジョンにほかならないのだろうが(それともSPの演技が良かったからFSでご祝儀点? そんな理屈が通るの?)、それにしてもSPよりも明らかに精彩を欠いたFSの演技で、マカロワ選手のPCSがSP以上の高さを平気で獲っているのは、あまりにもあからさま過ぎる得点操作としか言いようがない。
結局、総合で浅田選手を超えることは出来なかったものの何とか七位に着けたマカロワ選手のおかげで、ロシアは来季の出場枠を三つ確保した。

ジュニアの実力選手が台頭してくる来季以降の出場枠を、今大会に何としてでも増やしたかったロシアが東京ワールドの代替地にいち早く声を上げたのもこのためかと考えるとあまりにも心が荒んでくるので、こんな辛口意見はこれ以上述べたくはないのだが、強豪国である筈のアメリカがまたしても二枠、カナダに至っては一枠に減らしてしまったという結果は紛うことなき事実なのだ。

(ちなみに韓国も二枠だが、来季キム選手が引退ということになれば、彼女の穴を埋めるほどの実力のある選手が育っているのか甚だ疑問だ。真の実力や才能のある選手が世界選手権にエントリー出来ない中で、各国に万遍なく振り分けられる表彰台…スポーツとはまことに可笑しなシステムで選手の順位づけをするものだ。)

ところでしつこいと思われるかもしれないが、昨季あれほどタチアナコーチの『鐘』は重い、暗い、浅田選手のイメージに合わないと騒いでいた一部の方々は、今回の『愛の夢』に付けられたPCS、そして今大会の結果についてどのようなご意見を述べられるのだろう。
うっとりするほど柔らかく優しく、これ以上ないほど観衆を夢心地に誘う『愛の夢』、完璧な出来とは言えなかったが決して悪い内容ではなかった。それともSPがタチアナコーチのプログラムで、あんまり好印象じゃなかったから、そのダメージがローリーのプログラムにも及んだとでも仰るだろうか。
まあ、誰がどういう理屈を捏ねられようと一向に構わないのだが、選曲の方向性が選手に合っていようがいまいが、ジャッジの趣味に適っていようがいまいが、そんなことはすべて机上の空論で、そもそも全く無意味だということが今季はっきりしたような気がする。

          ※

さて、優勝した安藤選手、SPの記事でも書いたが全く妥当な結果だった。

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ジャンプは2A+3Tのセカンドが2Tになったものの、それ以外のジャンプは手堅く決めて45点台のスコアをマーク、シーズン通しての抜群の安定感はワールドでも揺るがなかった。
ただ、厳しいアンダーローテやダウングレードのために最後まで3Lz+3Loを復活させることが出来ず、彼女のポテンシャルからすると難度の高い技に挑戦出来ないフラストレーションみたいなものは残ったような気がする。

(村上選手の3T+3Tにしても、浅田選手の3A、3Fにしても、どうしたって厳正な判定というよりも不可思議なジャッジとしか言いようがない傾向がある。彼女らにつくURやDGが、一方でまったく見逃される選手が確かにいるからである。特定選手への見逃しや狙い撃ちとしか考えられないこうしたジャッジがある限り、観衆はスポーツ競技としての信頼性をフィギュアに置くことは出来ない。選手もまた、難度を上げたジャンプ構成への挑戦を控えざるを得なくなり、それは結局、競技としての技術の進歩を妨げるということが何故、賢明である筈の競技関係者、経験者には分からないのか、疑問の尽きないところである。)

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安藤選手に話を戻すが、シーズン緒戦はルール改正に伴う混乱で取りこぼしがあったスピンでもその後きっちり修正して、今大会でもシズニー選手に僅差の得点を上げている。
技術点への加点もキム選手に次ぐ二位(何故、ジャンプに失敗した選手よりも加点が低いのかこれも理解に苦しむが、回転が抜けるという明らかなジャンプミスがふたつあるにも関わらず、GOEによる減点が一切ないからという事実がその理由だろう。安藤選手でさえ、-0.57の減点があり、村上選手は-1.21、浅田選手に至っては-2.17もの減点があるのだ。浅田選手が今季、果敢に取り組んだジャンプの矯正に対するコーラーの答えがこれだ。)、ステップやスパイラルといった各エレメンツを落ち着いて決めて、今季全体を象徴するような円熟した演技で四年ぶりの世界女王に返り咲いた。

          ※

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二位のキム選手、一年のブランクがあっても三回転の連続ジャンプを決める彼女のパフォーマンスの質が低いとは思わない。特に2009年のロスアンジェルス世界選手権から昨季のバンクーバー五輪に掛けて、彼女が培った絶対的な自信は、風格とも言って良いほどの力強さを演技の其処彼処にもたらしているし、それが畢竟、失敗したジャンプやエッジエラー、大きく軌道を外していくスピンにさえレベルと加点をジャッジにてんこ盛りさせる偏愛につながっているのだろう。

要するに、キム選手のスケーティングスキルはそれなりに魅せられるものを持っているのだが、ジャッジから不自然な賞賛の恩恵を受け、ミスに対する減点もされないという採点の歪みによって、著しく一般の観戦印象との乖離が生じ、彼女に与えられた数字や順位に対する観衆の不信感が、彼女自身の真価や人知れぬ精励さえすべて水泡に帰してしまう。
彼女の実際の演技内容と技術が、本来の出来や水準に合った評価や採点がなされ、妥当な順位に落ち着いていれば、事態はここまで紛糾することはなく、FSで演じられたプログラムの意義も強く認識されたことだろう。

『オマージュ・トゥ・コリア』は端からキム選手にしか演じられないプログラムだったし、壮大なテーマと「恨」を含む楽想の持つ特殊性を、哀調を帯びた旋律に添わせて身を捩じらせる身体表現に昇華していくテクニックはまさに彼女の真骨頂といえるものだった筈なのだ。
だが、ジゼルとさほど変わらない印象でマンネリ化してしまった苦悶の表情と、手足の動きが乱雑になったためにかつては感じられた余情が消し飛び、通俗的になり下がってしまったオーラ、何となくそそくさと終わってしまい滑り込みの足りなさを露呈してしまったステップ、繊細さの欠片もないスパイラルといった中途半端で貧相な作り込みが、安藤選手に迫る高得点によってさらに観衆に反射的な反発を抱かせてしまう結果になっているのである。

          ※

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三位はコストナー選手、ここはヨーロッパ枠でロシアは無論、自国選手を送り込みたかっただろうと思うが、ステップではレベル4の大きく身体を使った圧巻の演技で、コストナー選手の持ち味を充分見せつけた伸びやかなスケーティングを披露されては、SP六位からの巻き返しもやむなしといったところだろう。
シーズン途中は三回転ジャンプがなかなか跳べなかったが、3Fがプログラムに入れられるようになったのが大きい。SPでもフリップを転倒したものの何とか三回転の認定を受けて、一方で3AをDG、転倒ではない3Fを回転不足判定された浅田選手よりも高いジャンプ・スコアを確保した。

ジャンプは今や着氷しようがするまいが、回り切って降りてくることがルール上の成功なのだ。ただし実際のところ、コストナー選手の転倒フリップはどう見ても回転不足でそれは解説でも指摘されていたのだが、プロトコルが出てきてみると認定されていたのだから、これほど理不尽な話はない。
日本やアメリカの選手には容赦なく突き刺さる<の一方で、転倒しようがするまいが減点が平気で見逃される優遇選手がいる不公平も、コーラーの裁量次第という訳だ。
さらにこのコーラーによって、安藤選手の3Lz+3Loも、浅田選手の3F+3Loもセカンドのループが認定されないという非常識なルール運用がまかり通っているが、結局は難度の高いジャンプを跳ぶ選手からいかに彼らの武器を奪って、大技がなく難度の低いジャンプ構成でも対抗出来るように、念入りに術策を張り巡らせた仕掛けなのだから、正攻法で太刀打ちしようとしても巧くいかないのは自明の理ということなのだ。

今季、現行ルールを逆手にとって、五つのジャンプを後半に集めて加点を稼ぐという荒技に出たのは安藤選手とモロゾフコーチだが、勿論こうしたジャンプ構成に賛否両論あることは百も承知のことだったろうけれども(お馴染みウィーラーさんは安藤選手のモロゾフ・プロがお気に召さないらしい。いかにも得点稼ぎという印象のためだろうか。)、回転不足をとられる懸念のある高難度のジャンプを端から削って、安藤選手のとにかくクリーンなジャンプを毎大会ジャッジに印象付けることで世界女王の称号を手にした。

分別をわきまえた大人の選択をし、ガッツのある演技で理想的な美しいジャンプを跳ぶことに専心した安藤選手と、智略家モロゾフの頭脳的作戦の勝利だ。

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そして、ロシア、アメリカの選手を挟んで六位に着いた浅田選手、確かに調整の失敗で体重を落とし過ぎ、筋力、体力の萎えた身体で高難度の技に挑んでゆく姿は、砕け散ることを承知で聖戦に臨む殉教者のような崇高ささえ感じられる思いがしたが、ジャンプは情け容赦のない<の狙い撃ち、神憑り的な片足ステップや美しいポジションを保ったスパイラルでも村上選手より低い加点しか貰えず、スピンに至ってはキャメル姿勢でのバランスが崩れたのを狙いすましたようにレベルを取りこぼし、最終組を外された時点でPCSも期待できる筈がなく、荒波に呑まれるように静かに沈んでいった。

浅田選手が、自国開催という利はあったにせよSP、FS両方で自身も納得の集中した演技を見せたレオノワ選手、冒頭の3ルッツで転倒したシズニー選手、さらに台乗りしたコストナー選手やキム選手よりも上位であったかどうかなどという論議は、今さらプロトコルをどう検証したところできりがない。
まさきつねはバンクーバー五輪のアメリカ代表だったウィアー選手を髣髴としたのだが、これがフィギュア競技における現実、新採点システムを現行ルール内で正当に運用した結果なのだ。

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★真央は6位も「今の調子で最高の演技ができた」
http://www.sponichi.co.jp/sports/news/2011/04/30/kiji/K20110430000734390.html

 前回大会の女王・浅田真央は、ジャンプのミスも出て6位に終わったが「うっとりとしてもらえる演技ができるようにした」と、笑みを絶やさずに、最後まで滑りきった。

 SPで7位と大きく出遅れた。体重減によるパワー不足や調整の遅れを考慮して、佐藤信夫コーチはSPで安全策を勧め、フリーも「定石でいくと(3回転半は)なし」と話していた。それでも挑戦して失敗。オフにジャンプを基礎から見直す中でのシーズンを終えた。だが浅田は「百パーセントの出来ではないが、今の調子で最高の演技ができた。流れは良かった」と気丈に話した。

 ▼佐藤信夫コーチの話 私も今回ばかりは手探り状態でここまで来た。終わってみると(浅田は)平均的な力は出したと思う。いいときもあれば、ミスもあった。そういう中でやってきた。

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浅田選手は死力を尽くし、彼女らしい『愛の夢』を銀盤に描いてみせた。「うっとりしてもらえる」ようにと談話で語っていたが、触れればはかなくこぼれ落ちてしまいそうな、この季節にほろほろと長い薄紫の房を下がらせる藤の花のような、気品と優しさに充ちたその演技、足が氷に付いているのかいないのか、薫る風のようなトレースを残して去ったその滑りを、誰もが固唾をのんで目に焼き付けるかのように見守っていただろう。

それは「陶酔」というよりも「祈り」に近しいものだったと思うが、日本の復興がまるで彼女の挽回にかかっているかのように祈念する黙祷のごとき静謐な時間が、粛々とアリーナの冷たい氷の上に流れていただろう。

最終的に日本は来季の出場三枠を獲得して、すべては宿題として未来にもち越された。浅田選手同様、武器だった三回転の連続ジャンプに<を突き刺された村上選手もまた、世界の実態に愕然とし、その弾けるような笑顔を今はただ、凍りつかせるしかなかったと思う。
勿論、来季になって薔薇色に染まった世界が拡がる確証など微塵もない。むしろ来季からシニアに参戦してくるロシアの真の実力を持った若手たち、あいかわらず先の読めないルール変更と運用が、コーチ陣や選手たちに今度はどんな決断を迫ってくるか、すべては始まったばかりなのである。

田村岳斗さんが言うように浅田選手の、六種類ジャンプを組み入れ、すべてのジャンプを矯正して彼女の理想とするスケートを目指すという正攻法が必ずしも間違っているとは思わない。
フィギュアスケートの採点が実績に基づいているものなら、確かにこの一年、ただひとりすべての種類の三回転ジャンプに挑戦し続けた姿勢は、プロトコル上に残っている。何よりも、公式試合を休むことなくたゆまぬ努力と研鑽を重ねて、転倒していた緒戦からすべてのジャンプで着氷する今の状態にまで進化していった一年の辛苦、その道のりは多くのひとの記憶に残っている。

無駄であったものはひとつもないのだ。

失われたものは多かったが、いつまでも消えない風のトレースのようにこころに流れ、過ぎ去った思いは数えきれまい。

佐藤コーチも「手探り状態で」やってきたと語っておられるが、コーチにとってもこの上なく長く、そしてあっという間の苦しいシーズンだったかと思う。それでも「いいときもあれば」と言葉に出せるほどの、幸せで充実した時間がいくつもいくつも流れては、それがいつか、風が残した軌跡のようにこころに刻み込まれ、美しい名前の記憶のようにきらめいている筈だ。

風を名づけるのは、無責任な言葉を喋りまくるアナウンサーのポエムではない。
風の輪郭をなぞり、風に名前を与えることが出来るのは、静かに不器用に前へ進み続ける者の途切れることのない強い意志。
崩れ去った瓦礫の中から、ゆき過ぎた栄光の跡から、途切れぬ意志の力でひるむことなく立ち上がり、流れていく風に、過ぎてゆく時間に、もう一度、あなたしか名づけることの出来ない美しい名前をつけて欲しい。


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風がながれるのは
輪郭をのぞむからだ
風がとどまるのは輪郭をささえたからだ
ながれつつ水を名づけ
ながれつつ
みどりを名づけ
風はとだえて
名称をおろす
ある日は風に名づけられて
ひとつの海が
空をわたる
この日 風に
すこやかにふせがれて
ユーカリはその
みどりを遂(と)げよ
(石原吉郎『名称』)


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