月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

モードの迷宮

フィギュア77

浅田選手の特集ページがあるということで、あちこちで売り切れ続出の勢いらしいVOGUE JAPON。写真よりもインタビューページの充実がファンにはうれしかったのではないだろうか。

品の良い表情と、凛とした姿勢。一流モデルの条件にもさまざまあるだろうが、ノーブルさとゴージャス感はモードを伝える場合の最低条件であろう。そしてこのふたつが畢竟、観ている人間に与えるのは、時と場所を同じくした幸福感なのだ。

そしてもうひとつ目を惹き付けるのは、浅田選手ならではのフェミニンとマスキュリンの入り交じるジェンダーを超えた美しさである。「妖精のような」というのは彼女の形容の定番であるが、人間的な性を超えているからこそ纏えるイメージだろう。


ところで、いわゆるモード系ファッション誌と位置づけられるVOGUE JAPONであるが、モードとファッション、ともに「流行」という意味で使われる言葉であるが、ラテン語の語源からしてこのふたつは厳密な違いを持つ。

ファッションは行為、所作、活動などを意味する「ファクティオ」という単語からきているという。一方のモードは、方式、様式、形式などを意味する「モドウス」から変化した言葉である。つまり、モードの方がスタイルという意味に近いといえるだろう。

日本のファッションデザイナーの草分け的存在である西田武生さんによると、「モードというのは創作です。ファッションは、モードが一人二人、十人、百人と理解されて一般化していく過程をいうのです。」という分析が為されている。
モードが最先端のスタイルを生み出し、限られた人々にボードリヤールが言うところの「象徴的価値」をもたらす。ファッションはモードを、特別な階層限定の記号から引き剥がし、一般社会の消費者が受容し得る商品へ置き換えていく。

欧米のような上流社交階級が歴然と存在する社会では、デザイナーがオートクチュールやブランドアイテムによって打ち出した流れを、モードとして受け入れ、デザイナーの創作品として所有することで、自らの所属する階層を示すひとつの記号とする。高級リゾートホテルのホテルマンが運び出すヴィトンの大型トランクは、それを所有する滞在客の象徴なのだ。

一方、日本では、ブランドアイテムが所属階層を指し示す記号として機能することはない。
オートクチュールデザインであれプレタポルテであれ、それがそのままストリートファッションとして大衆化することは、まずあり得ない。日本でたとえ現実的なリサーチで、ルイ・ヴィトンの年間生産量の50%が消費されているという結果があるとしても、そのほとんどはトレンドに乗った一般消費者が購入したもので、その人々が特別な階層に所属していることを象徴している訳ではないからだ。

服装にしても、靴やバッグなどのファッションアイテムにしても、日本では消費者によって選ばれたものをファッションと呼び習わし、トレンドとしての「流行」と定義付けるために、オートクチュールとは比較にならないくらい相対的に安い価格で大量に出回る商品が、いわゆる「流行」に敏感な購買層に享受されるということになる。
そして、「流行」に敏感な購買層にとって「ファッション」は、時代の先端を行く「お洒落」の象徴でなくてはならない訳だから、自分が身に付けているものが周囲に「流行の先端」を指し示す記号であると認識されるためには、今のトレンドが何かという情報リテラシーを周囲を含め一般大衆が共有している必要性があるのだ。

つまり外観が、トラディショナルなものだろうと、アヴァンギャルドなものだろうと、着用ないしは携行するものそれ自体が「流行の先端」かどうか、トレンドを意味するものなのかどうかが既に一般的に知れ渡っていなければ、流行に敏感であることの象徴となり得ないのである。

ここに日本における「ファッション」が、「流行の先端」でありながら「既に終わっている流行」であるというアンチテーゼを包摂する、すなわち「脱構築的」性格にあると確認することが出来るだろう。

現代の日本で、前述の西田さんの言うような「創作」としてのモードを「流行の先端」として位置づけることは、マーケティング戦略的に困難なのだとまさきつねは思う。

なぜなら、見た目ド派手で実験的な試みばかりが目立ち、一体誰が着るのかどこで着るのかという謎に包まれているオートクチュールデザインであるが、ランウェイを歩くモデルたちによるショーのサプライズ的演出とは裏腹に、その実態や意義は実に堅実なパタンナーやお針子らの職人技に支えられた、デザイナーによる前衛への挑戦であるからだ。
つまり、パターンのラインをどう引くか、どんな素材を使うか、そしてどんなスタイルを作りどんなライフスタイルを提案するかという、きわめて地道できわめてラディカルな服飾の原点から、決して遠く離れていないのである。

モードとは、(その生産コストがいかほどであろうと、そんなことに一切お構いなく、)今までにない新しいライン、新しい素材で、見たこともないほど美しい布の皺を貪欲に探し求めながら、新しいスタイルを創造するという点で、ブランドデザイナーは「流行」を生み出す先駆者足り得るのだ。

だが反面、それはとりもなおさず、素材が同じでパターンが同じという前提条件の生産ラインでコストダウンを計る、大量生産による商品供給を根底から否定してしまう。

日本のように、スカートや上着の丈を長くするか短くするか、あるいはゴムでギャザーを作るか端を折り込むか、さらに言えば重ね着やコーディネートで雰囲気を変えるかといった次元で「流行の先端」を語っているファッション雑誌が、消費者の流行指南書として山のように横行し、それをむさぼるように読む購買層が確立しているのは、僅かな投資で去年と違うイメージを作り出して、実際にはさほど変わり栄えのしないデザインを新商品として売り込みたいアパレルメーカーの緻密な計算によるものだろう。

日本のファッション雑誌購読者は努力家なので、出版社やメーカーが張り巡らした罠のような、デザインディテールのほんの小さな違いや、色の変化、着こなしの追加などに繊細に感応し、トレンドとしての「流行」に乗っかる悦びを味わっているのだ。


さて、VOGUE JAPONの話に立ち返ろう。

これもファッション雑誌には違いないが、さすがに日本のストリートファッションを啓蒙する各誌とは、いろんな部分で趣きや狙いが違うのは、扱われている服飾メーカーやモデル、また記事の部分でも容易に理解出来るところである。

浅田選手が着ている衣装、まさにモード感全開である。どうやらフィービー・ファイロが手掛けるセリーヌを着用したらしい。

あちこちの報道機関でも紹介されていた、全身が見えるパンツルックでは、「もふもふ」だか「ふわふわ」だかよく分からないファーか毛糸のような飾りが前面に張り付き、足はといえば、大事な足首は大丈夫なのかと心配したくなるほど高いヒールで、どう考えてもスタジオから歩いて一歩も出れまいマニッシュ・スタイルである。だが不思議なほど違和感がない。決してリアル・クローズではないのだが、浅田選手のスタイルにマッチしているのは、浮世離れした彼女の雰囲気とモードのテーマが共鳴しているのだろうか。

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最初のページはさらによく分からない、黒い背景に黒い衣装で、こうなるとモードというよりモード写真というべきなのだろう。デザインとしては、袖部分が総レースで、肌の透け感が狙いだったのだろうと想像する。

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冒頭に挙げた最後の一枚は白いふわふわしたレースフリルが胸元を飾る、最もフェミニンな印象の衣装であるが、ドレスとはいえ部屋着並みの露出度なのでストリートファッションとしてはこれも無理があろう。だが浅田選手の鎖骨の美しさ、少女から女性へ変貌を遂げる寸前の透明感のある清らかさが鮮烈で、どこかルネッサンスの画家の素描を思わせる現実からの距離感が胸に沁みる。

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(モデルさんが着ていた写真で全体を見ると、白いベビードール・ドレスのような雰囲気のデザインだ。これはやはり、真央ちゃんの全身像がぜひとも見たかったと思う。)

フィギュア77-8

(こちらはパンツルック。こうして見るといかにもマネキンのようなモデルの装いに比べ、浅田選手は彼女の個性で着こなしている。)


衣装としてのトレンドを売りにしない、大衆に媚びないこうしたモード写真は、結局はモデルの内面性、画面に滲み出る人間としての魅力が全てだと思うのだが、ジャンプもスケートもしない浅田選手の視覚画像にも、それが充分感じとれるということが伝わる仕事だったと思う。

モードの迷宮をひととき戯れる、アスリートの表情。

VOGUE JAPONさん、堪能させていただいて、ありがとう。


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VOGUE7月号、楽天で予約してゲットしました。記事の部分インタビュアーがよかったですね。素直な問いに素直に答えるっていう感じで。
パンツルックの真央ちゃん見て、ドムニナ・シャバリンのEXマトリクスみたいな、シャープでかっこいいプログラムも見てみたいなと思いました。ロシアつながりでオリガのRIZEなど、黒のレオタードに皮ジャケットで滑ったらかっこいいだろうな、なんて妄想してます。
2010/6/1(火) 午後 8:37 [ Meiling ]

Meilingさま
ほんとに、何だかひねくれた質問が、いくつもこれまで選手たちに投げかけられてきたので、インタビューのごく普通の質問と、ごく普通の浅田選手の受け答えが爽やかでしたね。
妄想中のMeilingさまに、黒革のレオタードルックで舞選手と一緒に撮ったCMメイキングです。どうぞ。

http://www.youtube.com/watch?v=fMUE311WS6U
2010/6/1(火) 午後 11:07 [ まさきつね ]

まさきつねさま
CMメイキング堪能いたしました。ありがとうございます。
2010/6/2(水) 午後 8:09 [ atm**gc2*02 ]

Meiling(atm**gc2*02)さま、ご堪能いただけましたか。
良かったです(笑)。

EXでもあのルックでいつか滑って欲しいですね。
2010/6/2(水) 午後 8:44 [ まさきつね ]

まさきつねさま そしてMeilingさま
VOGUE買いました!グラビア素敵。インタビュー記事◎◎◎よかった。ご意見全く同感。一番聞きたかったこと、そして素直な答え、なぜ他の雑誌にできないないのよおお??VOGUEには、なににも揺らがないモードにかける意思を感じ、真央さんの強さに通じるところがあると思います。
★私、リンクで半回転?ジャンプかな?みたいなことできるようになりましたよ。まじめに週一やってます。
2010/6/3(木) 午前 10:40 [ jun*u*noma*a ]

jun*u*noma*aさま
ご訪問うれしいです。
スケート頑張っておられるのですね。すごいなあ。週一なんて、なかなか出来ない実行力ですよ。脱帽いたします。
でもご自分でおやりになると、今まで分からなかったものがお分かりになってきたのでは? また是非ご意見お聞かせくださいね。
モードでもスケートでも、芸術でも、それにかける創作者の気概が大切ですよね。金儲けのためなど、もってのほかです。
2010/6/3(木) 午後 6:42 [ まさきつね ]

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