月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

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氷上のグラン・ジュテ


前のエントリーに幾つかの情報を付け加えよう。

まず、タチアナコーチのタンゴのお相手は、(アイス・ダンスファンはお気づきになったと思うが、)イリヤ・アベルブフだった。というのも、この新番組『Ice and Fire 』の前身である『Ice Age』そのものが、アベルブフを仕掛け人として始まったテレビ番組であるらしい。
2006年から続く『Ice Age』は、スター女優や人気バレリーナが男性スケーターと組んで氷上の舞を競うのが売りで、出演者のプログラム作りから番組全体の構成、演出までを手掛ける総監督をアベルブフが務めているのだという。

番組を紹介した読売新聞の記事によると、アベルブフは演出の狙いを「すべりの上手さより、プログラムに人生の喜びや悲しみなどストーリー性を持たせて、ショーとしての美しさを追求している」と語っていて、スケートの素人である出演者を巻き込んだ番組作りが、ロシアに空前のスケート・ブームを興し、番組のヒットによって、ロシアの人々が子どものころから親しんでいるスポーツを、大人が楽しむお洒落で魅力ある娯楽へ再認識させているらしい。

ところでアベルブフといえば、ソルトレイク五輪の事件がどうしても離れないが、演技そのものは金とか銀とかを論じるのが馬鹿ばかしくなるほどの圧巻で、特にSP序盤でリンクを斜めに突っ切っていくダイアゴナルのストレートラインステップは、迫力あるスピードと演技力で観る者はただ息を呑む。

☆Lobacheva & Averbukh (RUS) - 2002 Salt Lake City, Ice Dancing, Original Dance☆

この後のフリー演技はさらにチャレンジングで、アベルブフがアクセルジャンプを組み入れるというメダルを狙う者のプログラムとは思えない内容だったが、アクロバットなポージングと艶美なダンス表現は氷上とは思えない密度の濃さで、金メダルこそ元パートナーのアニシナ組に奪われたものの、ステップや要素の濃密さ深さで彼らを超える強烈な印象を残した。
五輪後、長野開催の世界選手権では(アニシナ組は出場していないものの)、その実力を発揮して初優勝を飾っている。

☆Lobacheva & Averbukh (RUS) - 2002 Salt Lake City, Ice Dancing, Free Dance☆

アベルブフは翌年もGPSから欧州選手権と、ともに初優勝に輝く活躍を重ねているが、ワールドではカナダのボーン&クラーツ組に敗れて二位になり、そのままアマチュアを引退した。ソルトレイクのスキャンダルについては多くを語ることもなく、プロスケーターとして活躍する傍らで「現役の頃と違ったフィギュアの面白さ」を発見していくうちに、スケートショーの演出やプロデュースを手掛けるようになったらしい。

好奇な眼に晒されていたメダリストの心を傾けた活動が陽の目を見て、その活躍ぶりが結実した番組企画によって、ロシア国内のフィギュア人気が今まで以上に高まり、ソチ五輪へ向けての国内ムードを牽引しているということなのだろう。
それもただ、スポーツの勝ち負けにこだわって発奮する味気ない国威発揚という類でなく、スポーツジャンルでは素人の女優やダンサーといった芸術分野の人間を引き入れて、あくまで洗練された美しいものへの憧憬を視聴者に与える優雅さが漂うあたり、フィギュア競技あるいはスポーツという分野がまだまだ幅広く世界を拡げる余地を持っていることを感じさせてくれるところである。


さて、もうひとつの話題。この新番組でスケート分野のタチアナコーチに対し、フロアダンス分野の審査委員長を務めるらしいファルフ・ルジマトフについて。

2007年にレニングラード国立バレエ団の芸術監督に就任したというニュースが当時世界中を驚かせたが、その手腕は遺憾なく発揮され、彼の才覚は高く評価された。しかし、2009年には「踊ることに専念したい」という理由から職を辞し、同時に芸術顧問(アドバイサー)という立場に退いて、現在もダンサーという立ち位置で顧問職を歴任しているらしい。
ロシアのみならず日本でも彼のファンは多いと思うが、その代名詞ともいうべきレパートリーが『海賊』のアリ役である。

☆Le Corsaire - Ali Variation☆

この爛熟期のグランド・ピルエット、そしてグラン・ジュテの煌めきは、まさにバレエの真髄というべきものだろう。彼の動画はどれを観ても厭きないが、本題から離れ過ぎるのでここまでで留め置く。彼に審査されるフィギュア・スケーターは、ある意味幸せな体験を積むと思う。

そして冒頭写真に掲げた浅田選手のバレエ・ジャンプの美しさを繰り返し語るまでもないと思うが、真に磨かれ、鍛えられた身体芸術は本来、とても孤独な技術の研鑽と、孤高な魂の叫びから生まれ出る。

憂悶と逡巡を繰り返し、剥き出しにされた魂をどれだけ舞台の上に投げ出せるか。グラン・ジュテは、すべてを脱ぎ捨てて裸身になった彼らの、心の跳躍なのである。

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まさきつねさまこんばんは。
アイスダンス、あまり詳しくないのですが、アベルブフさんの演技は、本当に今見ても斬新で迫力がありますね。そして品格も。
バンクーバーオリンピックの優勝者の演技は、実はあまり好きではありませんでした。背中に乗ったりぐるぐる回したりしてもいいけど、優雅さが足りないとダンスじゃないのでは?と思ってました。
点数を取るためにはしょうがないのでしょうが・・・。
2010/9/22(水) 午後 10:46 [ atm**gc2*02 ]

atm**gc2*02さま
コメントありがとうございます。
ロシアのダンスは、氷上もフロアも関係なく、毅然として優雅ですね。アイスダンスも、ルール変更などですっかり様変わりしましたが、北米的なアクロバットのような現代的な要素に重点が置かれている今の祭典傾向も、ソチまでにはまた変わっていくのではないでしょうか。
女子シングルの演技も、どうもキム選手を手本とする傾向にはなりそうもない気配ですね。それも当然だろうと思いますが、選手自身のほうが、何を目標とすべきか、演技の真価をよく理解しているのだろうと思います。ロシアのジュニア選手は少なくとも、2A頼みのプログラムやエコステップで、安易に優勝しようなどと考えていないようですからね。
2010/9/23(木) 午前 0:55 [ まさきつね ]

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