月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

つぶやいてみる 其の拾六


あちこちのブログでも話題になっているが、さまざまなメディアが流している浅田選手と長久保コーチによるジャンプ矯正のニュースをあれこれと観た。

大半は今の日本の報道機関ならまあこの程度だろうという、あいかわらずキム選手の「歴代最高点」とやらを引き合いに出した文面ばかりだ。ルールも変更され、プログラム中のエレメンツさえも変わってしまう採点競技で、最高点など何の基準にもならないことは誰でも分かる理屈なのに、この国ではひたすら(どうでもいい表彰式ニュースも含め)、他国選手の持ち上げ報道に腐心する。

その中でようやく、妙な偏見や逸脱の入らない健常な記事があったので、ご紹介する。

http://olympic.joc.or.jp/teamjapan/2010/08/4-3be8.html

(前略)浅田選手は今年6月から、技術コーチとして、鈴木明子選手を指導する長久保裕コーチに師事。浅田選手は「オリンピックの時期に自分のジャンプが乱れていて、結果的には跳べても、昔と違う感覚になっていると感じていました。オリンピックが終わって一区切り。今が一番ジャンプを変える時期だと思い、習うことを決めました。2ヶ月ではまだ自分のものになっていないですが、しっかりした形で跳べるようにしたいです。形の基礎が出来れば、2年、3年としっかり出来て(ソチ冬季オリンピックのシーズンには)難しいジャンプを出来ると思います」と話し、ここ数年でフォームが変化したジャンプを修正していることを明かしました。
長久保コーチも「今までは自己流で力を入れて跳ぶ練習をしてしまっていたが、タイミングよく跳ぶほうが正しいジャンプになる。だいぶ跳び方が直ったが、たまに前のクセが出る。感覚が合ってくれば良くなるだろう。5、6年前のジャンプに戻せるよう指導している」と指摘。練習が前進している様子を伝えました。
浅田選手の新プログラムは、ショートプログラムがシュニトケの『タンゴ』、フリースケーティングがリストの『愛の夢』。浅田選手は「まだジャンプの練習ばかりで曲を通す練習はこれから。(2011年3月の)世界選手権に間に合えば良いけれど、のんびりする気持は全然ないです」と気持を引き締めていました。(後略)

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さりげなく鈴木選手の動向に触れているのが、気持ちが好い。
お互いの立場やさまざまなことを考慮しながら、アスリートらしい健全なライバル意識に燃えて、ともに向上心を高めている様子が伝わってくる。
採点競技である以上は順位を競い合わねばならぬ選手同士ではあろうが、求める世界観や表現したいものには当然相違があり、それが両選手が互いに尊ぶべき個性であることを、両選手ともに重々理解しているからだろう。

原点に回帰して、自らのジャンプの弱点を克服しようとする浅田選手も素晴らしいが、三回転の連続ジャンプに挑戦している鈴木選手も凄い。中間点が設置されたことから狙った試みなのかも知れないが、このような純粋に限界に挑む選手の姿勢こそ、得点に反映されるべきなのだ。
やる気のない演技に「実績点」の高下駄など本当に無用だ。

そもそもアスリートが懸命に精進する姿は、嫉妬よりも、周囲も奮起させられる力に変わる筈なのだ。
バンクーバー五輪の舞台で、ロシェット選手が浅田選手の演技に「燃えたわ」と語っていたのは、アスリートとしてごく自然に沸き起こった感情だったのだろう。

長久保コーチが語っているテレビニュースも観たが、文面で読むほど、挑発的で特別な話をされているようには思えない。
現在取り組んでいることも、「昔に戻しているだけですよ」とあくまで基礎から練習を積み上げているらしく、「昔の動きが出てきたら、はじめて新しいものに進んでいきたい」という自然な口ぶりで、極めて堅実なことを仰っている。

対する浅田選手の談話も「しっかりとした形で跳びたい」「しっかりとひとつひとつ出来ることをやっていきたい」と、毎度コーチから聞かされているのだろうなと思う、「しっかりと」という言葉を何度も口にしているのが印象的だった。

面白かったのは、長久保コーチの方が浅田選手を「優等生過ぎるわけですよ」と評し、「僕は枠から飛び出させたいわけですから」と、最後に浅田選手の潜在能力を匂わせる発言をしている部分だ。

五輪メダルだの世界女王だの、「歴代最高点」だのと、ありふれた既成概念や称号の決まりきった枠に嵌めて、フィギュア演技や技術の価値や評価の先入観を植え付けようとする風潮に対する牽制もあろうかと思う。
曇りのない眼でものを観、数値に惑わされず評価する姿勢をメディアも学ぶべきだと、言外に伝えておられるように感じている。


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こんにちは!
オフシーズンにこれだけ話題になる浅田選手にはあらためてその存在の凄さを感じますが、まあ大変だろうなと…笑
浅田選手もコーチも『ゆっくり着実に』『世界選手権までに』『2、3年後』と言ってるにも関わらず、やはり心配性のファンやマスコミは放っておかないですね。どうか本人達がこのような声に惑わされることないように今シーズンを過ごしていってほしいです。
しかし、今季のEXはいいですね!見ていてうっとり。浅田選手しか持たない、まるで上品な洋書の中の世界感。朝日を見た興奮というよりも夜の海の音をずっと聞いてるような心地のいい世界。いや、もう中毒です!
2010/8/13(金) 午前 2:00 [ atokota ]

atokotaさま
コメントありがとうございます。
昔からマスコミが追いかけるのは「有名税」とか言いますが、同じ騒ぐにしても根拠なく叩くのは止めていただきたいものですね。日本の至宝をもっと大切に扱って欲しいものです。
今季のEXは観れば観るほど嵌っていきますね。つなぎやジャンプ、ひとつひとつのエレメンツが、みるみる進化しているのが分かります。バレエのレッスン風景で、浅田選手のフィギュアの練習風景までもが透けて見えるなんて、タチアナコーチも粋なコレオを付けてくださったものだと感心しています。
2010/8/13(金) 午前 7:37 [ まさきつね ]

こんばんわ!!
いつも興味深く拝見させていただいております。したたかなマスコミはルール改正によって要素が変更され、基礎点が変り、GOEの幅も変わり、今シーズンは全体的に得点が低くなるかもしれないこと等も知っているにも関わらず、多くの人が知らないのをいいことに、キムヨナ選手を引き合いに出し、あくまで150点という銀河点と真央選手の今シーズンの得点を比較し、及ばなかった時に”やはりキムヨナ選手は凄い!!”という方向に持ってゆきたいんでしょうね。なんか最近私も捻くれてついこのように邪推してしまいます。いけませんね。
2010/8/13(金) 午後 8:12 [ maofan ]

maofanさま
コメントうれしいです。
仰るとおり、マスコミの思惑はGPSスキップの選手を持ち上げて、ワールド参戦をごく自然に演出することかも知れませんね。邪推ではないと、まさきつねも思います。
プルシェンコは訳の分からない言いがかりで競技会への出場権を剥奪されたのに、なぜキム選手の方はお目こぼしされるのでしょう。フィギュア競技に対する功績からすれば、プルシェンコの方がはるかに偉大であるにも関わらずです。
近代スポーツが政治と切り離せない事情は重々承知していますが、マスコミやISUの指針がどうあれ、美しさと生きる姿勢を数値化することは出来ないということだけは、拙ブログを通じても発信し続けていきたいと思っています。
2010/8/13(金) 午後 10:00 [ まさきつね ]
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