月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

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朝のように、花のように、水のように 其の壱

フィギュア105-1

五輪シーズン、浅田選手が選んだSPプログラムは前季と同じ『仮面舞踏会』だった。プログラム曲が発表されたインタビューに彼女は「昨年とは違う仮面舞踏会を見せられたらいい。昨年は力強い舞踏会だったが、今年は華やかな、初めて舞踏会に来たような感じで滑りたい。」と答えている。

GPS緒戦のフランス杯、薄いブルーの衣装で披露された演技は柔らかくしなやかで、冒頭の3Aの失敗こそあったもののセカンドジャンプをつけて跳ぶ冷静さは失っていなかったし、その他のジャンプもスロースターターと言われる彼女のシーズン初めにしては決して出来の悪い印象ではなかった。スピンやスパイラルに関しては、前季に比べればスピードが増し、ステップも体のキレがよく、躍動感溢れる演技を見せていたのである。

課題があるとすれば、スピンやスパイラルのレベルの取りこぼし、そしてジャンプの回転不足やツーフットを修正して精度を上げることなどで、これはプログラムの全体的な未完成の印象に繋がるものではあったが、前季の力強い怒涛のステップを踏まえつつ華やかさ優雅さを加味した、『化面舞踏会』の生き生きとしたステップの再現は、彼女の言葉通り、新しいシーズンにおける演技の狙いをしっかりとらえたものだった。

結果はキム選手に17.12の大差をつけられてSP三位。
これを受けて各報道は一斉に、「振り付けや曲の解釈などに対するジャッジの評価は、キム・ヨナに軍配」と浅田選手のプログラム叩きの様相を見せ始める。
「浅田は昨季のフリーで使ったハチャトリアンの『仮面舞踏会』の音楽を使った。映画『007』のテーマ曲で、昨季とはひと味違うセクシーなボンドガールを演じたキム・ヨナが、新鮮味で勝った印象」というスポーツ誌の記事にあるような、前季と同じ音楽を使用すること自体、浅田選手の得点が伸びない要因、一方でキム選手の方は斬新で「スターのプログラム(青嶋ひろのさんによる文飾)」という採点に対する解釈が風潮として蔓延し始めたのである。

「大差」「SP曲変更」と、内容のきめ細かい分析もせず、何とかの一つ覚えのような報道を続けるマスコミに対し、浅田陣営の出した答えは「曲目は変更なし」だった。EXの『カプリース』への変更をさかんに煽る報道が続く中、衣装を試合ごとにチェンジするという今の曲目を変えることなどまるで念頭にないようなニュースが流れ、そして記事通り衣装をブルーからピンクに替えたのみで、浅田選手は連戦のロシア杯に挑んだ。

結果はシニアの国際試合に出場し始めて以来、過去最低の51.94点で六位という低調ぶりを「半べそ」「迷い込んだトンネル」などと、またしても強調する記事が並ぶ。
だが実際のプロトコルでは、確かに冒頭ジャンプから2Aのキックアウトで得点が伸び悩んだことは致し方ないにしても、それ以外のスピンではすべてレベル4を揃え、スパイラル、ステップでは曲のタイミングが合わなかったためかレベル3に留まっているものの、ポジションや体の動きに問題はない。
つまり、ジャンプミスは得点源としてマイナスが大きかったものの、そのほかの要素では報道で大きく書き立てられるほどの不調がある訳ではないのである。ただし、なぜか一様にGOE加点は辛目で、スピードもありチェンジエッジ、ポジション変化、足換え、体勢変化といった要素も申し分なく、軸ぶれの少ない美しい演技にも関わらず、ジャッジの評価が低いのだ。

音楽が同じだから「目新しさに欠ける」「重厚な曲調でワンパターンの印象」という理由で、同じ楽曲を使用するのは目新しさを求める現在の風潮に合わないというのが、大方のメディアの論調である。
だが仮にも採点のスペシャリストたるジャッジが、曲が同じということだけに惑わされて、実際に演じている内容の奥深い表現の違いや、要素の細かな変更に気づかないものなのだろうか。

どうやら気づかないものなのらしい。

☆Mao ASADA SP エリック・ボンパール杯09-10☆

フィギュア106-2

タチアナコーチをして「(精密)機械のようだった」と言わしめたキム選手のSP演技は確かに、エッジの矯正もした完璧なジャンプ、レベルを揃えたスピンやスパイラル、要素を充たしたステップと、ルール上何ひとつ文句のつけようのない内容ではあったけれども、そこに一体(あの指ぱっちんと指ピストルの決めポーズ以外に)観るべき何があり、目新しい表現や心を揺さぶる挑戦らしきものの何があったというのだろう。

フランス杯のジャッジはキム選手の「振り付け」に8.10点、「曲の解釈」に8.15点を付け、合計で76.08点を出した。一方の浅田選手はそれぞれ7.35点と7.25点。8点台と7点台の違いの根拠はまさしく曲に対する「ジャッジの印象」だろうが(それ以外に何があるんだニャン?)、こんな不確かで不明瞭な採点基準が、絶対評価を標榜する新採点システムの中身なのか。

前述の青嶋さん曰く『007』は、「振付師デービッド・ウィルソンがすべての力を尽くして作った」渾身のプログラムらしいが、前季の振り付けと何が変わっていたのだろう。ステップに至っては『シェヘラザード』と全く同じ、休み休みで何の変哲もない力を温存するためのプログラムだ。

だが曲目が違っていて、衣装や演じるキャラクターさえ替わっていれば、「目新しさを求める」筈のジャッジは、プログラムの内容が似たり寄ったりなことにはこだわらないものらしい。
あげく「完璧」で「お手本通り」ならばGOE加点をするのが新採点システムのお定まりか、「金妍兒の卓越な演技を見た後、加算点を十分に活用しようという雰囲気が作られた。それも金妍兒に限ってのことだ」http://japan.donga.com/srv/service.php3?bicode=070000&biid=2009101974738という韓国ジャッジの打ち明け話も、ルールの上では不正ではないのである。
韓国のメディアが「教科書」と評するキム選手は、与えられたことを忠実にこなしてISUご推奨である最強の選手に成り上がったという訳である。

浅田選手に話を戻そう。

五輪も含め、いよいよ「浅田選手には勝たせない」というISUの意図が明確化していくようなシーズンにあって、もはや対選手というよりも、対システム、対ルールを意識しながら、モチベーションを保ち続けなければならない選手の精神力はいかばかりだったのだろうと思う。ロシア杯の結果は厳しく、GPファイナルからも弾かれて、一時的にせよ表舞台から姿を消して、五輪切符を賭けて全日本選手権での復活、連覇を目標に、プログラムを修正し、ジャンプの精度を上げていかねばならなかった。

みどりさん以来の天才ジャンパー故の挫折と苦悩という側面で、浅田選手の五輪シーズン中盤を語ることが出来ないこともないが、彼女の技術、体力、表現力、どれをとっても破格であったことがそもそもISUの基準を大きく外れた「異端分子」であり、バッシングの対象になっていた側面は否めまい。
「天才は天才を知る」と言うが、同じく「宇宙人」的天才であるプルシェンコの、浅田選手に対する鍾愛ぶりを見ていてもその同志的な繋がりは伝わってくる。

タチアナコーチは率直に「乗り越えろ」というテーマを掲げていたが、この時期メディア始め多くの人の口の端々で、新採点法ルールに対応していなかったといわんばかりに、タチアナコーチやタチアナコーチの選曲に対する疑問符がついた批判が上る中、最後まで浅田選手の姿勢はぶれることなく、「頑固」といういささかシニカルな褒め言葉さえ飛び交うくらい、自分の選択を貫き通した。

(現実的にマスコミの言うように、浅田選手のコーチが北米人だったり曲や振り付けが北米向きだったりしたところで、情勢が大きく変わっていたとはとても思えない。むしろISUの思惑に嵌って、二番手三番手以下の選手に成り下がっていた可能性の方が高い。長洲選手を始め、アメリカの選手たちが味わった処遇を見てみれば、それは一目瞭然だろう。)

かたや浅田選手にとって、自分の努力と工夫によっていつかは乗り越えることの出来る技術や演技表現上の課題など、実際のプレッシャーとしてはさほど大きいものではなかったような気がする。

ジャッジに付け入る隙を与えないほどの強さにまで技術力を高め、誰もに有無を言わせないほどの美しさにまで表現力を深めていく。
そのために彼女が即断した選択は、傍から見れば難しいものではあったけれども、彼女にとっては迷いのないごく当然の道であったのかも知れない。

事実、彼女は全日本までに、軌道や跳ぶ位置を変更するなどでジャンプの課題を克服しているし、ステップやスパイラルの要素にも手を加え、構成を変えることで演技表現にも幅を出し、黙々と自己鍛錬に没頭する。
五輪選考すら危ぶむようなマスコミ報道の中、迎えた全日本選手権では、3Aの回転不足によるDG判定と最後のスピンでのレベルの取りこぼしはあったものの見た目ノーミスで、他の要素はレベルを揃え、GOEもまずまずでSP一位の好発進を遂げている。

☆Mao Asada 浅田真央 2009 Japanese Nationals short programme☆

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五輪前の四大陸選手権ではまたもやSPでジャンプミスがあったものの、五輪の大舞台では3Aのコンビネーションもついに認定され、演技の直後にぴょんぴょん飛び跳ねる喜びの様子を見せるほどの完成度を披露してみせた。

☆ばんくーばーをとぶ(Mao Asada)☆


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