月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

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マスカレードの苦悩


009年カナダ開催の四大陸選手権後、ロス=アンジェルスで開かれた世界選手権までにはいくつかの気になる報道があった。

ひとつは浅田選手の右ひざ故障報道をめぐる怪事件で、その裏にタチアナコーチ追い落としを狙いとする日本スケート連盟の一連の動きがあったというスクープである。
もうひとつは世界選手権での連覇を五輪選考のアドバンテージにするというもので、これは裏返すと成績如何では選考を白紙に戻し、来季の全日本を優先して五輪選考を決するという内容だった。

このふたつの報道はほとんど日を空けずに流れていたのだが、実はもうひとつ、いわくつきの城田女史をロス開催の世界選手権に、村主選手、安藤選手、織田選手の三人に限り後方支援に当たるという名目で派遣するというニュースが帯同していたのである。これは一体どういうことか。

無論推測に過ぎないが、この一連の報道はすべて裏で繋がっている。
浅田陣営とタチアナコーチに対する牽制、連盟お墨付きの選手に対するISUジャッジによる仕分け、そして五輪選考と五輪結果に至るまで連盟が思い描く独善的なシナリオ…選手ひとりひとりの血の滲むような努力は勿論、アスリートの誇りも、競技としての公平性を求めるフィギュアファンの純粋な応援も、そのどれもが置いてきぼりで、組織の体面と威信に拘泥した人間のエゴと利権主義が剥きだしである。

その中で例の、キム選手から飛び出した日本選手による練習妨害発言があり、事の真偽はともかく、会見で一方的にマスコミから追及されねばならぬ立場に置かれてしまった浅田選手に対し、日本国内でのファンによる抗議活動が起きるまで、波風を立てまいと一切重い腰を上げようとしなかった連盟のぬるま湯のような保身主義が明らかになる。

そして始まった世界選手権、オーサーコーチの殿堂入りを控え、また先の四大陸選手権の結果からもある程度予測出来たとはいえ、SPの得点差がISUの意図するところのすべてであり、現行ルールの下す判断の一切だったということだった。すなわち、四大陸選手権でジャッジのひとりを務めた藤森女史の「今の国際スケート連盟(ISU)の審査方向は、難易度よりも美しく完成されたジャンプを求める方向に来ています」という発言どおり、ジャッジは特定した選手の演技にGOEの大盤振る舞いをし、演技・構成点でも破格の点数値を付けた。

ジャッジの印象が与えた点である以上、選手の間でどれだけ得点差があろうとルールの上では不正ではない。順位が妥当なら致し方ないで済まされてしまう次元である。
だが、もはやフリーで誰がどんな神演技を披露しても追いつけない得点差が(何ひとつ納得のいく筋立てもないのに)、SPで付いてしまったということになると、それはまだ卑しくも競技と呼べるものなのか。1点を競っている筈の選手の間に、SPだけで8点以上の差が付いてしまう採点は果たして、観衆の受けた印象からするとあまりにも隔絶したものではなかったのか。
答えはFS演技の中にある。

浅田選手の演技初めの3Aコンビネーションは着氷、だがふたつめは回転不足で転倒、基礎点8.2の高難度ジャンプで僅か1点しか稼げない。連続ジャンプの3ループはやや怪しかったが認定されたものの、ルッツとサルコウが入らないジャンプ構成は偏りが否めない。
こうしたジャンプのDG判定と不正エッジに気を抜かれる一方で、芸術性を訴える筈のステップは劣化し、楽曲の世界に寄り添った表現には粗雑さが見られ、SPでも月光の化身の憂いでジャッジの心を揺さぶることが出来なかったのと同様に、悲劇の貴婦人の悲しみに観衆を引き込むことも半端なままで終わってしまった。

傷心のままリンクを去る時に、倒れ込むようにタチアナコーチに抱かれていた浅田選手の細い背中が、言葉にすることも出来ない苦悩のすべてを語っていた。
衣装も替えて、心機一転なんとか流れを呼び戻そうと臨んだ世界選手権は、四大陸選手権からの理解不能なジャッジ採点を平常値に揺り戻すこともなく、不安と不信に充ちた自らの心情を演じたニーナに重ねあわせる表現も出来ないまま、後ろ盾となるべき国内の支援も期待出来ず闇の中に置き去りにされて、台落ちという結果を受け入れざるを得なかった。

☆高画質 浅田真央 2009世界選手権フリー ♪仮面舞踏会☆

フィギュア103-2


そしてこうした試合結果を受けて、日本の報道はどれもが軒並み「宿敵の背中が遠のいた」「キム・ヨナに力の差を見せつけられた」と得点差が事実上の実力差であるかのように書き立て、スケート連盟については「『このままじゃ大変なことになる』と危機感を隠さない」あげくに「浅田に200点超えを厳命」とベタなドラマの筋書きのような話を勝手に盛り上げている。

日韓のライバル関係でドラマチックな背景を作り、妖精のようなヒロインが苦境を乗り越えて成長していくさまを、涙あり笑いありで追いかければマスコミは満足なのだろうが、追いかけられ祀り上げられる側は生身の人間としたら、たまったものではないだろう。

実際、鬼畜としか思えないスケジュールでエントリーさせられた国別対抗戦では、見事に期待に応えるかのようにSPでも3Aを組み込む荒業で200点超えをマークし、「最終戦をいい演技で終えられて満足」と作られたドラマ以上の劇的な幕引きをやってのけるのだからその底力には恐れ入る。だが結局は、マスコミにはおいしいとこだらけの格好の餌食である。

さらに演技の不調の原因はあいかわらずどのニュースでも、「プログラムが難しい」、「演技にスピード感がなくなった。その原因の1つは細部に要素を詰め込み、技術的、体力的に男子並みとも言われる難し過ぎるプログラム」と、難度の高いエレメンツが演技の完成度を奪っているという一辺倒な言い回しが並んでいる。
プログラムの密度を下げればエレメンツのレベルが獲れる。芸術性にこだわればエレメンツの要件が欠ける。
そもそもフィギュアはスケート技術と演技の芸術性を問う競技ではなかったのかと首を傾げたくなる話であるが、茶番劇のような演技・構成点で完成度を語られても、観衆は白けるばかりだろう。

この前のシーズン、イェテボリの世界選手権を制した浅田選手の演技・構成点は60.57点、キム選手は58.56点だった。世界女王として60点を超える演技・構成点は決して低くはないし、事実(しょっぱなの大失敗の後は最後までが上り調子で)、誰もが納得する素晴らしい演技だったことは間違いない。
そしてこのロスでの世界選手権で出した浅田選手の演技・構成点は62.88点で、前シーズンを上回っている。だが一方のキム選手の演技・構成点は68.4点で、たかだか一年の間に10点近くも跳ね上がり、これをもって単純に比較して、浅田選手の完成度が低いという説明に繋げるのはあまりにも乱暴だろう。

さて、多くの聡明なブログ主方々が既にあちこちで指摘されているので、今更また繰り返し述べるのもどうかと思うのだが、つまるところロスの世界選手権で妥当であったかどうか問われているのは、順位でもなければ、浅田選手の得点でもない。この突拍子もなく上昇した演技・構成点を含め、キム選手の点数が果たして妥当か、それに尽きる。

浅田選手は確かにふたつめの3Aに失敗しているが、プログラムに3Aコンビネーションを入れられる女子選手はほかにいない。
また、3Lz+3Loの高難度のコンビネーションジャンプに挑んだ選手、五種類の三回転ジャンプを跳びこなす選手もいるという大会の中で、一位を獲った選手はサルコウを失敗し、ループを回避、そしてスピンのひとつは要素を充たさずノーカウントになったにも関わらず驚異的な130.59点を稼いで、合計で200点を超える最高得点を叩き出した。

フランスの解説者はこの時点で既に「男子並みの得点を叩き出す選手の演技か」と指摘しているが、浅田選手の失敗を挙げて表彰台を逃したのは仕方ないというニュアンスの日本のメディアで、たとえ浅田選手が失敗しなくても追いつかないキム選手の得点に、疑問符を付けた報道は皆無に等しい。
(現実的に、国別で完璧な演技を披露した浅田選手の得点は201.87点で、世界選手権のキム選手の得点207.71点に及ばない。別試合だからという理屈だろうが、点数値が指針にならないなら端から最高得点も何もあったものではない。)

順位が妥当なら得点差に言及するのは無用という、健全なスポーツとしてどこか投げ遣りとしか思えない欺瞞と無責任がいつからこの競技において、関係者の間に風潮としてあるのか知らないが、「完成度が上がった」という言い回しひとつで、ひたすら五輪シーズンの間も果てしない銀河の彼方へ、ひとり上昇し続けたキム選手の得点には一般観衆もただ呆れるばかりだった。

最高得点の更新とやらは五輪の大舞台でピークを迎えたが、続くトリノの世界選手権で失敗どころか、もはや試合放棄と言われても仕方のないような巫山戯た演技でお茶を濁しながら、五輪を雪辱する完璧さを魅せた浅田選手よりも高い得点を上げ、この一件によって鍍金が一気に剥げ落ちて、現行ルールと採点の矛盾点が白日の下に晒されることになった。

仮面でお互いの顔が見えない舞踏会の中、愛する夫からあらぬ疑いをかけられた貞淑な妻ニーナは、最後まで純粋に夫に心を尽くし、ひたすら無垢である。
何の罪もない彼女を冷酷な死に追いやったものは何か。

私欲とエゴイズムにまみれた男たちと、短慮で身勝手な友人と、罪が行われていることを知りながら自らの復讐のために口をつぐみ殺害を見逃す男など、ニーナを取り巻く人間たちは誰もが自己中心的で、浅はかで思いやりがない。
毒を盛り直接手を下したのは、愚かにも自分勝手な思い込みで真実を見ようとしない夫だが、ニーナを苦しめ絶望に追いやったのは、不貞の疑念をかけ愚行に走った夫よりも、誰ひとり彼女に救いの手を差し伸べようとしなかった周囲の冷淡な傍観だろう。

マスカレードは誰もが真実の自分を隠す。
悲劇に煩悶するニーナに残された道はなかったが、浅田選手には唯一心から信頼出来るコーチがいた。
懐に飛び込んできた小さな少女の背中を自分の分身のように無言で抱き締める、ロシアの大地のように豊穣な慈愛に充ちた体。
それがせめて彼女を、国別対抗戦で見せた最後の溢れんばかりの笑顔に導いていったのである。
☆浅田真央 2009 国別FS タラソワ解説のみ☆

☆おまけ☆My Neighbor Tatara(Mao Asada)

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こんにちわ~。
今回のまさきつね様の御指摘・・・私も不思議に思いながら感じておりました。(私だけではないでしょうが・・・)
マスコミに関しては、今更なので、何も言いたくありませんが。。。
城田女史や平松純子も含めてスケート連盟は、なぜ浅田選手を守ろうとしないのか?ずーっと不思議でした。もともと日本は、それなりにフィギュアは人気があったと思いますが、それでもしょせんマイナースポーツに変わりはありませんでした。そのマイナースポーツが、大人気になり競技大会やショーのチケットが争奪戦となる現状況を作り出したのは、間違いなく浅田選手だと思います。
なのに「なぜ?」と・・・この女史達の発言この方達に守られてる村主選手の発言など聞いたり読んだりしている内に私の中で一つの結論に達しました。「嫉妬」かな・・と。安直でしょうか?
2010/8/1(日) 午前 10:43 [ ちゃーちゃ ]

ちゃーちゃさま
コメントありがとうございます。
「嫉妬」は愚かな人間につきものですから、当然その一面もあるかと思います。浅田選手の才能を最も羨んでいたのは、ほかならぬキム選手だったとも思いますよ。
「嫉妬」という感情に獲り付かれるのは、凡庸な人間だからこそとも言えますね。ただ組織絡みの人間は、もっと執拗に根深い利権への欲望を感じます。人間の生臭い煩悩は百八つ…まさに百鬼夜行です。
2010/8/1(日) 午前 11:24 [ まさきつね ]

まさきつねさま、こんにちは

あの年は、金選手ひとりが大躍進して、それでもアウェイのGPFで浅田選手が勝ったのにマスコミからはひどい報道があるし、妨害報道があるしで、ファンとしても要らないことで心を痛めることが多かったです。本人の不調を心配した昨シーズンのほうがまだ良かったです。

私は世界選手権の浅田選手の勝利と笑顔がすべてを浄化したような気がしていますが、忘れてはいけないような酷いことがたくさんありましたよね。

今の話題になりますが、浅田選手のコーチ選びはどうなっているのでしょうね。
もちろん浅田陣営が主体的に動くべきことでしょうけれど、連盟はどう関わっているのだろうと思っています。コーチ不在の闘いは、結果論としては浅田選手を褒めてあげたいけれど、はじめからコーチなしが良い戦略のはずがありません。

浅田陣営任せではなく、連盟のサポートももらって、良い形になるといいのですが。
2010/8/1(日) 午後 1:12 [ くまねこ ]

まさきつねさん、こんにちは。
嫉妬もありかと自分も思いますが、真央選手をソチ五輪まで頑張らせ、もう4年間、フィギュアスケート人気を保持し、日本スケ連は勿論のこと、国際スケ連も含め、その経済効果の恩恵を受け得る輩達の長期的且つ計画的な陰謀を背景に何らかの裏取引が存在していろのではと思っております(大袈裟)。
もう試合前に順位は決まっていて、なんとか理屈を付けて辻褄合わせしようという魂胆見え見えで、本当に真面目に競技している選手達に不敬極まりないですね。特にあの五輪での点差と世戦のフリーの順位は、?の100乗で、結局、6.0採点時代の問題点と悪しき慣習を引きずったままなんだなと思うと本当にがっかりです。採点方法の変更が、少しでもこの得点と観衆の印象とのギャップを埋めてくれる僅かな期待を持って、今シーズンのフィギュアスケートを見守りたいものです。
2010/8/1(日) 午後 2:09 [ can*dak*ra ]

くまねこさま
ご訪問うれしいです。
ロスのワールドをトリノが払拭したと思えればそれに越したことはないのですが、引退せず今季の東京ワールドにもごそごそ参戦してくるとなると、またどんな怪奇現象があるやらと観る側としても余計なストレスがある訳ですよね。
浅田選手のコーチ選びにも、オーサー絡みの妙な報道がありましたね。彼女ほどのランクの選手になるとコーチ選びも難しいのでしょうね。でもジャンプコーチや体力サポーターがしっかりしていれば、そんなに焦ることはないのかもと思ったりします。自己管理能力には長けているようですし…これも今までの経験から得た副産物ですね。
2010/8/1(日) 午後 4:54 [ まさきつね ]

can*dak*raさま
本当に、こちらが大袈裟かなと思う妄想さえ当たらずとも遠からずという気がしてくるフィギュア界は、魑魅魍魎だらけですね。
あらかじめ順位が付けられた競技なんて、スポーツどころか、バレエやダンス、ピアノといった芸術コンクールでさえ、ありえない話ですよね。
確かにどんな採点法にも長短はありますが、大事なのはシステムの健全化と採点する側の良心ですよね。改悪されるルールと私利私欲のジャッジでは望むべくもないのですが、希望だけは失いたくないですね。
2010/8/1(日) 午後 5:09 [ まさきつね ]

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