月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

百鬼夜行の夜

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前回に続き2008年-2009年シーズン浅田選手のFSプログラムを考察する。
まずは、フランス杯、NHK杯、GPSファイナル、全日本選手権四つの演技を並べた動画をご紹介する。

☆4人の浅田真央 / four Mao Asada☆




SPで三回転連続ジャンプのセカンドが認定されないという苦境に立たされた中、タチアナコーチが浅田選手に与えたシーズン課題は「挑戦」であり、FSに振り付けられたプログラムはこれ以上にないほど密度が濃く、隙のない構成で作り込まれたものだった。そこで、「力強く」をテーマに掲げた浅田選手の意気込みがシーズン始めに報道に挙がっていたが、生半可にはこなせない高難度要素の羅列は、詰め込みすぎでミスを誘い、現行ルールでは畢竟得点には結びつかないという批判も多かった。

先にそれぞれの大会での浅田選手の順位と得点を列記しておこう。

フランス杯:2位 167.59(SP58.12 FS109.47)
NHK杯:1位 191.13(SP64.64 FS126.49)
GPSファイナル:1位 188.55(SP65.38 FS123.17)
全日本選手権:1位 182.45(SP65.30 FS117.15)
  
全日本選手権までの戦績を見ると、GOEだPCSだと騒いだところで、さほど問題視するに当たらないと思われるかも知れない。だが実は、FSプログラムにおいても、SP同様の課題が大きく響き、三連続ジャンプは失敗もしくは入れられない状態、ルッツジャンプもまた不正エッジを考えプログラムに組み込めず、基礎点の低さを3Aで補うという背水の陣ともいうべき戦法に頼らざるを得ないというありさまだった。

3Aにおいても両足着氷や回転不足という減点を免れないことが多く、プログラムの内容に対する疑問から端を発し、タチアナコーチが現行ルールに対応していないという批判や『仮面舞踏会』の重層な音楽への反発などアンチ意見が来シーズンに渡って、一部に根強く残ることになった。

そして中でも、全日本選手権のFS演技は、最も五輪シーズンの苦悩を予感させる結果だったといえるだろう。二回挑戦した3Aは国内大会であるにもかかわらずどちらも回転不足認定で、後半三回転連続ジャンプ3F+3Loのセカンドも回転不足、サルコウジャンプも一回転になるという失敗が続いて、総要素点は54.67にしか満たなかった。

実際、回転不足のジャンプなのだから致し方ないという話ではあるが、眼にも明らかな失敗はサルコウだけなのだから、観衆の印象からは著しく乖離した結果だったということは否めない。国内選手権については国際大会と違って得点が公認されないことから、各国とも採点がインフレするのは周知のことであるが、全日本選手権に関しては回転判定が厳正で、浅田選手以外の各選手とも得点が伸び悩んだ。だが村主選手だけは多くの指摘があるように若干判定が甘めで、FSについては120点を超えて浅田選手を抜く一位を獲っている。

採点について個人的に村主選手を批判するのではないが、演技の印象からすれば、回転不足判定やエッジエラーを見逃し、GOEやPCSで加算されれば、ジャッジの意図で順位操作は可能という邪推があっても無理はない。
ISUは数値の上で妥当性を見出そうとしているのだろうが、ジャッジの匙加減で点数値が大きく変わる採点法の欠陥は、公平性を疑われるのが本意ではないにしても、とても大勢からの賛同を得るものではない。ましてや、たかだか30度前後の回転不足で、不完全な三回転と判定され、あげくGOE減点で二回転ジャンプの失敗同様に扱われるのでは、高難度の技に挑戦する側とすれば、たまったものではないだろう。
(さらにこの大会の六分間練習中に、村主選手と安藤選手が接触するというハプニングがあり、この件でも村主選手をことさら非難する訳ではないが、世界選手権前にキム選手の不愉快な日本選手妨害発言などに繋がっていったように思う。)

さて結局、ハードスケジュールによる疲労という日本スケート連盟側の説明もあったものの、得意とする筈のジャンプが得点源にならないまま、四大陸選手権、続いて世界選手権へともつれ込んでいった訳だが、その一方でスピンとスパイラルでレベル4認定をものとし、つなぎや楽曲解釈などを評価する構成点では全日本では唯一60点台を確保した。

あれほど、詰め込みすぎだ何だと批判されていたタチアナコーチの振り付けで、不振のジャンプを尻目にこまかく得点を稼いだのは詰まるところ、当初からのコーチの狙いどおり、確かなスケーティング技術や芸術性に充ちたつなぎ部分など、四肢の先にまで神経を行き届かせた小さな要素の積み重ねだったということである。
浅田選手の、軸がぶれず体勢も美しいスピンや優雅なスパイラル、楽曲の旋律をひとつひとつ拾う、音に添った所作やステップは、今やジャンプ以上に彼女の演技の見どころとなっている。

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迎えたカナダ開催の四大陸選手権は「バンクーバー五輪の前哨戦」などと煽る、愚かな報道もあったようだが、キム選手優勝、ロシェット選手二位という結果から見ればまさに翌年のバンクーバーではこのような結果を望むと言わんばかりの、カナダ側の思惑が透けて見えるようなものだった。SPで六位と出遅れた浅田選手がFSで追い上げて、三位に浮上したのは、非情なルールに苦しめられながらも銀メダルを勝ち取った五輪結果を予兆するものだったのかも知れない。

現実的に、この四大陸での悲惨な結果の直後に無思慮にも、「バンクーバーまで、もう時間が無い? いや、ソチ五輪には、まだ5年もある! 浅田真央はこれから5年かけて、じっくりと、心の強さも兼ね備えた真の女王に育っていけばいいのではないだろうか。」と、あたかも既に翌年の五輪では勝てないと言い切っているような記事を書き棄てるライターがいたのである。
今現在を必死に闘っている選手に対し、五年後頑張れば良いなどと気遣いの欠片もない言葉をよく吐けたものだ。どんな裏事情に通じているのか知らないがこのようにこの時分から、日本国内にもひそかに蔓延し始めた健全なスポーツ精神に背を向けた翳りが、どれほど選手たちの心を傷つけたか想像に難くない。

そしてこの四大陸選手権の直後にようやく右ひざを痛めていたことが明らかになった浅田選手だが、疲労を抱えた体に鞭打ちつつ難度を下げたジャンプ構成で臨み、3Aを一度決めて転倒はなし、全体的には精彩を欠きながらも重厚なステップを精神力で乗り切って、FSプログラムだけではロシェット、キムを抑えて一位になっている。

不調で、加えてジャンプ構成の難度を低くしたにも関わらず、国際大会が118.66(合計176.52)という全日本選手権よりも高い得点を出すのだから、もはや観衆にとってフィギュアの採点というのは何が基準で、点数値のどこを信頼して良いのか全く判らないという、スポーツ競技にあるまじき矛盾した結果が大手を振って横行し始めたということだろう。

3Aを一回に抑え、連続ジャンプのセカンドを三回転から二回転に下げた方がISUのお眼鏡に適い、DGもされずに得点が伸びる。逆に、SPで一位を獲り得点差もあったキム選手の方が珍しくFSでループジャンプに挑戦して失敗、そのほかのジャンプでも軒並みDG判定を喰らい、スピンのレベル獲りにも苦杯を舐めることになった訳である。

大技にチャレンジすることよりも、回避する方が点が取れる。まるでどこかの受験生の必勝テクニックのようだが、ISUの百鬼が夜行するリンクの上ではそれがお定まりになってしまったことを裏付ける大会が、カナダの四大陸選手権だった。

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あとプログ主様自分自身でも久しぶりにフィギュアの記事を書いたので見に来てください 。
http://blogs.yahoo.co.jp/suzume97e/16895136.html
2010/7/30(金) 午後 10:12[ 小林きたじ ]

小林きたじさま
お誘いありがとうございます。お訪ねしましたよ。
フィギュアのテレビ放映のことですね。バラエティーだけでなく、ショーをしっかり地上波で流して欲しいですね。
2010/7/30(金) 午後 11:16 [ まさきつね ]
v=HO5cF-Y7WUI


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