月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

さまよえる魂の物語


今更出遅れのW杯ネタではあるのだが、一応総括としてエントリーしておこう。

ランビエールがどこかのアイスショーで、スペインに勝利したスイスのことを叫んでいた記憶があるのだが、それほどワールドカップGL初戦のスペイン対スイスのゲームは面白かった。そしてこの結果は、スペインに新たなジンクスを与えていた。すなわち、初戦に敗れたチームはワールドカップを制覇したことがないというお定まりである。

南半球で行われたW杯は、端から欧州勢にとってはジンクスだった。だがこのふたつのジンクスを覆して、ついにピレネーを越えた優勝杯。レアルとバルセロナの選手がかたく抱き合い、ともに涙して、スペインはとうとう新たな歴史の扉を開く。
W杯を制したことがない王者は、二年前の欧州選手権でタイトルをもぎとり、それからこつこつ防衛戦のような実績を積み上げて、ようやく真の王者の栄冠を手にすることが出来た。予言士タコのパウロ君も見事だった。

まずは事実上の決勝戦というべきだったのだろうか、準決勝のドイツ戦。
ドイツは二年前の欧州選手権から蘇る妄執から逃れられなかったのか。若い選手たちには、あらゆる数値的データが指し示す相手方の実力のほうが勝るという結論を、今回のW杯を突破してきた自らのダイナミズムで乗り越えることが出来なかった。
徹頭徹尾、守備に走ったサッカーは、もはやPK戦に持ち込むしか勝機を持たなかったが、二年前よりは二チームの実力が拮抗していたとはいえ、それを許すほどスペインのポテンシャルは衰えていなかった。

中盤でダイレクトの際立つプレーを魅せるスペインのパス・サッカー。初戦のスイス戦では黒星を喫したものの、その美しさが際立っていた。バルセロナの神がかり的なパス・ワークがスペイン代表に乗り移って、W杯史上に残る名勝負を展開した。
ところがその後の調子は歯車が狂ったように下がって、高いボール・ポゼッションを誇りながら得点力に結びつかず、六試合で七得点というお粗末な結果で息も絶え絶えにGLを乗り切り、ドイツ戦でようやく復調の兆しを見せたという体たらくだった。

だが、それでも迎えることが出来た決勝戦。得点の低さの一方で、決勝トーナメントに入ってから三試合無失点という数字が生み出した結果である。
バルセロナに比べれば、美しく流れるようなパス・ワークとは手放しでほめ切れないが、それでも接戦をものにして勝ち進むことが出来たのは、ボール・タッチでもたつきながらも相手チームに攻撃する時間を許さない、頑強なボール保持力と中盤の支配力が為せる業と言えるだろう。

そして決勝で対戦したオランダであるが、形振り構わぬラフ・プレーに関しては苛立ちを隠せない向きも多かったとは思う。だがそれも畢竟、格上の相手に大きなアドバンテージが得られない以上、致し方のなかった選択だったのだろう。

オランダが勝ち残っていった理由の方がまるきり解せない話なのだが、パスが回らない鈍重な中盤以降の動きが前線の足枷となって、相手チームにずるずる押し込まれ、欠伸の出るような試合ばかりを露呈してしまったにも関わらず、自ら崩壊していったブラジル、ベンチに実力のある控えを持たなかったウルグアイの南米勢を制して、誰も予想だにしなかったであろう決勝に顔を連ねてきた。

名将クライフの代名詞のごとき、「フライング・ダッチマン(さまよえるオランダ人)」の末裔たちは、先祖たちの幽霊船が姿を隠した喜望峰で思わぬ蘇生を果たしたということになるのだろうか。だが、試合の内容に関しては、クライフが電撃的に登場した1974年から事あるごとにオランダ・サッカーが呼称されてきた「トータル・フットボール」の片鱗さえ見せないものだった。

「トータル・フットボール」の概念は、流れるようなダイナミックな攻撃と、個人が全体のリスクを読みケアをするスペースに対する嗅覚によって支えられ、それが試合に「時計仕掛け」とか「渦巻き」と形容されるダイナミズムと、自己犠牲の精神及び熟練した経験が生んだ美しいサッカーを呼び覚ます。
失点を恐れず全員で押し上げていくプレーシステムは、勝つための最強戦術ではなかったが、スペクタクルなラインの動きやパス・ワークは確かに、伝説となるにふさわしい選手が実現させた斬新な構想だったのである。

クライフはその後、指導者としてバルセロナの基礎を作り、バルセロナのプレーが今のスペイン代表に受け継がているのだから、さまよえる魂が結びつけた因縁の対決であったことには違いない。

そして今回のスペインは、過去のさまざまなジンクスや因縁をくぐり抜けて、優勝に到達したのだが、このチームにはクライフやマラドーナといった特別なスター選手がいる訳ではなく、監督による並外れたサッカー持論や哲学による牽引があった訳でもない。ただ、ボール・ポゼッションにより時間を支配し、育成された若い力が自ら知恵を絞った攻撃で空間を制してみせたのである。

組織型プレーから守備にこもってしまったドイツや、システマティックに凝り固まってラフ・プレーに走ったオランダに対し、スペインの何が一番優れていたか。
勝てないと言われ続けていたが、歴史的にくすぶり続ける国の内紛を抑えながら地道に力を育成して、変われないと言われていたサッカーに変革をもたらしたその努力が結実したということなのだろう。



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最後に言わずもがなだが、決勝トーナメントに進んだ日本では、Jリーグに異変が起こっている模様。主力選手の海外流出という、前回大会では考えられなかった事態である。

海外移籍を望む選手にとっては喜ばしいことであるが、国内の中核は大きな痛手であろう。空洞化していくJリーグに、W杯に浮かれたファンたちの熱狂は、冷や水を浴びせられたように静まり返っていくのだろうか。

日本では各方面からの俄かな賞賛が起こるとき、政治家を始め多くの人間が勝者に群がり、その才能を消耗品として食い潰してしまう。スポーツ選手を自らの利権のために消費することには何の躊躇いも持たぬくせに、一方で選手やそのスポーツを育成するということには極めて鈍感である。

スポーツにしても科学にしても「二位じゃ駄目なんですか」などという発言を繰り返し取り上げるのもうんざりだが、W杯にせよ五輪にせよノーベル賞にせよ、スポットライトの当たる舞台ではさんざんお祭り騒ぎをやらかすくせに、そこに至るまでの個人による血の滲むような努力を社会的にサポートすることには、一向に無関心のままである。

(浅田選手だってまともな評価で賞賛してくれる海外の方がよっぽど手厚い保護を受けられ、環境も整うだろうと思うが、お偉方は当然、日本選手たちがそうはしないということを端からたかを括っているのだろう。)
現場や選手たちの超絶な努力によって開花した才能が黄金時代を支えている現状に、いつまでこの国は甘えているつもりなのか。

サッカーにしても、日本選手の国際評価が高まったことに浮き足立って、その流出をみすみす指を咥えて見ている愚に、メディアも政治家も気づくべきであろう。
経験を積んだ今回の主力層は、まちがいなく次の日本代表の基盤である筈だ。さまよえる魂をしっかりと自国に呼び戻して、次の大舞台に向けて、チームワークを整えることが出来るのか。

今回の結果によって勝利する日本を応援する喜びを知った以上、この国がさらに勝ち進みたいなら、W杯を単なるお祭りとして蕩尽するのでなく、スポーツとして文化として国を挙げて育てていく、それなりの術と改善策を図るべきだ。
このたびの日本代表がもたらしたベスト16のフィーバーこそ、四年後の檜舞台まで、新たな才能を見出し、後進を育てるための環境を整える必要性を論じていく絶好の機会であるのだから。

☆おまけ☆ぱお!ぱお!まお!
http://www.youtube.com/watch?v=DFeFhWglhk0&feature=channel


フィギュア99-2

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まさきつねさん こんにちは。
九州は梅雨も明け猛暑に突入しました!
出先で見ていたTBSのトーク番組。とある落語家が「女の子の可愛さを見分けるには「バキューン」のポーズが一番」と、なんだか先の見える発言。やはりその後はキムヨナの話題になりOPの舞台であのポーズをとるなんてさすがと無理矢理な展開。午前中から不愉快な気持ちになってしまってたので、まさきつねさんのサッカー総評を読みワールドカップの感動を思いだし、午前中の下品な会話を忘れる事ができそうです。
ワールドカップが終わりなんだか寂しいのですが、4年後の日本代表にはやはり良い成績を期待しまだまだワールドカップ気分が抜けません。
メディアや国のバックアップはもちろん重要ですが、ファンの私たちも辛抱強く応援し見守る事も大事ですね。
2010/7/18(日) 午後 2:04 [ きゃべたれ ]

きゃべたれさま
いよいよ夏到来ですね。なのに暑さを割り増しするような持ち上げトークは沢山というところでしょうか。
「バキューン」ポーズが女の子の可愛らしさの判定基準というのは、かつてアイドルのぶりっ子ポーズに悩殺された世代の生き残り発言かな。今の若い人が聞いたら、さぞかし「寒い!」と笑うかも知れませんね。逆に納涼効果があるかも(笑)?
日本のサポーターも審判も、数年前に比べれば凄く成長していると思います。温かく見守っているファンの期待を裏切らない、日本サッカーの発展を期待します。
2010/7/18(日) 午後 5:13 [ まさきつね ]

こんにちは、まさきつね様。
お久しぶりです。私事にかまけて訪問が遠のいておりました。

ワールドカップは終わりましたが、リーグ再開早々、自分のサポチームがいい出足を見せているので、ちょっとウキウキしています。
応援できるチームがあるというのは幸せなことですね。
ワールドカップを観てサッカーに関心を持った方たちが、自分たちの地元にあるチームにも関心をもってスタジアムに足を運んでくれることを願っています。

フィギュアスケートもしかり。
応援したいと思える選手がいるというのは、幸せなことです。
日本の選手は、どの選手も魅力的なワケですが、それだけではなく、日本人として嬉しいのは、試合ではライバルでも、それ以外では大事なスケート仲間だというのが、見ていて分ること。
だから、私は、どの選手も応援したくなるんです。

(続きます~)
2010/7/19(月) 午後 5:16 [ もじ ]

●コメント2 です●

ところで。嫌なニュースを目にしました。

ttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100719-00000007-scn-spo

トリノワールド2位のかの選手が、今季はGPSを欠場し、来年3月の東京ワールドに焦点を絞る、というのです。

実は、浅田・高橋両選手の連覇を期して、『歴史の目撃者』になるべく、お金を貯めて観戦に行きたいと目論んでいたのですが、このニュースを見て一気にテンションが下がってしまいました。
「もう、観るのは男子だけにしようかなぁ」
なんて(高橋選手の来季がまだ見えないので…)。
今でも、トリノのFPの得点を見たときの浅田選手の顔が忘れられません。
東京では、絶対にあんな表情をさせたくありません。

(またもや文字数にひっかかりました~)
2010/7/19(月) 午後 5:19 [ もじ ]

●コメント3 です●

それにしても。
お隣の国では、国内での選考大会等を経ることなく、出場が決められるのですね。実際のところはよく知りませんが…
日本では、実績もですが、やはり国内での選考というのがあるものですよね。
たとえ浅田選手といえども、トリノでのかの選手のようなグダグダ演技をしてしまったら(まぁ、浅田選手がそんな演技をすることは有得ませんが)、ワールド出場なんて到底無理なはずです。

サッカーのワールドカップなんて、一体何度試合をやってあの場に臨むのかを思えば、『世界最高峰』を決める大会に出る重みというのが知れようというもの。

一発勝負で優勝を狙う?
―――言葉が悪くて申し訳ありませんが、冗談はよせ、という感じです。

※またもや長々とコメントしてしまい、申し訳ありません<(_ _)>
2010/7/19(月) 午後 5:22 [ もじ ]

もじさま
コメントありがとうございます。長さはどうぞお気になさらず、いつも楽しくお話を伺わせていただいております。
キム選手のニュースは見ました。韓国では彼女の意志はすべて無条件で通るのでしょうね。裏に五輪誘致が絡んでいるので、政治的に当然といったところかな。
ワールドカップも韓国絡みではあまり心地よい話がないので、ちょっと辟易しますね。実際に不正があるなしに関わらず、こうした話が常に起きる国情が苦手です。
ただキム選手が一発勝負とやらでワールドに出場したとしても、トリノのような演技なら、GPSでの実績もなしでは、ISUもなかなか救い難いと思いますよ。
2010/7/19(月) 午後 11:05 [ まさきつね ]

おまけの動画、追加しました。
とても楽しい作品なのでサッカーファンの方もご覧ください。
2010/7/20(火) 午後 4:18 [ まさきつね ]

こんな時間ですが…
おまけの動画拝見しました~♪
どなたかのコメントにもありましたが、ホントに
「日本が愛してる 真央♪真央♪」
って聞こえましたwww
今夜は楽しい気分で眠れそうです。有難うございます。
2010/7/21(水) 午前 1:55 [ もじ ]

もじさま
動画、気に入っていただけて何よりです。
タカさんもノリさんもきっと、浅田選手が大好きですよね。
矢島美容室のお姉さま方には「何やってんのフジ~!」と叱っていただきたいと思います。
2010/7/21(水) 午後 5:20 [ まさきつね ]
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