月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

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気まぐれな薔薇


『カプリース』である。


まず前の記事でUPしたフィンランド解説の動画をご紹介する。
☆浅田真央 フィンランド版字幕世界フィギュア2010 EX:カプリース☆

原曲は、無伴奏ソロ・ヴァイオリンのためにニコロ・パガニーニ(1782?1840)が作曲した『24の奇想曲(カプリース)』から第24番イ短調であるが、タチアナコーチはこれをメインにして、浅田選手のフィギュア用プログラムのために、ピアノ伴奏やスキャットの入るポピュラーなものに編曲して使用した。

この原曲の主題は大変有名で、リストは『〈パガニーニの主題による〉大練習曲第6番』(ちなみに第3番が『ラ・カンパネラ』)、ブラームスは『〈パガニーニの主題による〉変奏曲』、ラフマニノフは『〈パガニーニの主題による〉狂詩曲』というように、ロマン派を始め多くの作曲家が、ピアノの超絶技巧を駆使した作品を残している。ピアノ独奏以外の管弦楽や弦楽器、打楽器による変奏曲を加えると、現代に至るまでまさに百花繚乱で、いかにこの主題が魅力的で音楽家のインスピレーションが触発されるかが瞭然である。

さまざまな動画があるが変り種で、奇才ファジル・サイの『カプリースのヴァリエーション』をご紹介しておく。時にクールでノリノリの、ジャジーなカプリースである。
☆FAZIL SAY PLAYS EARLY VERSİON OF HİS PAGANİNİ JAZZ 1996☆

さて、パガニーニであるが、フランスの画家ウジューヌ・ドラクロワが描いた彼の肖像がワシントンにあるフィリップス・コレクションに収められている。

2005年に東京で巡回開催された展覧会にリストアップされていたから、ご覧になった方も多いかも知れない。この作品について、ジャンケレヴィッチは著書『リスト ヴィルトゥオーゾの冒険』で次のように書いている。

「ドラクロワが有名な絵画のなかで描いたように、パガニーニはどことなくメフィストフェレスに似ている。パガニーニは悪魔にとりつかれたようにヴァイオリンを弾くのだが、そのヴァイオリンで悪魔がトリルを奏でる。ヴィルトゥオーゾの、関節が奇妙な曲がり方をしているように見えるシルエットは、悪魔が片足をひきずりながら歩く姿を暗示しているように思える。」

パガニーニは背が高く痩せ型で、冒頭のスケッチにあるように指が蜘蛛のように長かったという。さらに全身が毛深く色白で、髭におおわれた顔色も青白かった外貌から、「悪魔」とか「メフィストフェレス」という形容が出るのだろう。近年は作家アシモフらにマルファン症候群との類似も指摘されているが、幼児期から病弱だったことは確かなようだ。

そして「悪魔にとりつかれたよう」な超絶技巧の奏法や華麗な旋律、彼にまつわるさまざまな伝説が、ジャンケレヴィッチの言う「眩惑」を生み、19世紀にヴィルトゥオーゾ礼讃の波を沸き起こした。
ドラクロワの『ヴァイオリンを奏でるパガニーニ』は、1831年3月にパリのオペラ座で開かれた独奏会を聴いた直後に描かれたものと推測されている。

ドラクロワが描いた音楽家では、ルーブル美術館所蔵の『フレデリック・ショパンの肖像』が有名だが、ロマン主義的な「呪われた芸術家」の観念を造形化するにしても、ドラクロワがこうした同時代の芸術家にそれを託すことはむしろ稀で、多くはミケランジェロやダンテなど過去の天才に普遍的な表現を追求した。
だがドラクロワは、パガニーニやショパンという真に傾倒を示した数少ない同時代モデルに限って、その外面や形態をなぞるだけでなく、彼自身の大作に特徴付けられる劇場性や物語性に通じる、芸術家の心的な苦悩や感情を描き出すことに成功しているのである。

ところで、ドラクロワが「メフィストフェレスに似ている」ように描いたパガニーニは、真に悪魔だったのだろうか。
G弦のみで演奏したとか、釘を足に刺したままで弾き続けたとか、他にも恋愛や金にまつわるさまざまな伝説は、彼の悪魔性をドラマティックに演出するにうってつけだが、彼の残した音楽と向き合う限り、そこに神を否定する魔性は感じられない。
優雅な旋律も、神業テクニックも、それがどれほど観衆を誘惑し、陶酔へ引きずり込もうとも、悪魔の誘惑に魅入られているのは演奏する音楽家の側ではなく、聴いている受け手の方である。
パガニーニは涅槃の彼方でエレガントに、無邪気に楽曲と戯れているに過ぎない。彼は吝嗇だったというが、それはあくまで著作権上の金銭的なやり取りで浮かぶ人間像であり、至芸的な演奏の等価交換に聴き手の魂など求めてはいまい。

シューベルトが「アダージョでは天使の声が聞こえた」と称賛したのは、パガニーニの派手なヴァイオリン技巧ではなく、イタリアオペラのような清廉とした音色である。実際、パガニーニの作品には、音階の不協和や過激なリズムなどが多く散りばめられている訳ではなく、むしろ衝動的な舞踏への感興に充ちた旋律、困難なスコアへ挑む演奏家の純粋な歓びが溢れている。
☆Niccolo Paganini☆

この短い動画の中で、『24の奇想曲(カプリース)』の第24番を Alexander Markov(アレクサンダー・マルコフ)が、『ヴァイオリン協奏曲第2番カンパネラ』 を Ivry Gitlis(イヴリー・ギトリス)が、『Variations on God Save The Queen(英国国歌)』を Ruggiero Ricci(ルッジェーロ・リッチ)が演奏している。またギトリスは、「パガニーニ出現の前と後では全ての音楽の常識が変わったと思う。私にとってパガニーニは、延々と続いてきた音楽の発展の過程に現れたのではない。ある時突然そこにパガニーニがいたのだ。」と語っている。

パガニーニは気まぐれに咲いた庭の薔薇のように、19世紀の音楽界に舞い降りた。超絶技巧への礼賛は、風潮としては果敢ないものだったが、ベートーヴェン、ショパン、シューベルト、シューマン、ブラームス、ラフマニノフなど、その後の音楽家たちの記憶の彼方にヴィルトゥオーゾの熱狂をもたらしたのである。

そして現代。鮮やかなマゼンタと黒の衣装に身を包んだ浅田選手。
彼女の演技もまた、氷上に咲いた薔薇のように可憐で美しく、扇を手にした貴婦人の真夏の夜の夢のような情熱、舞踏の誘惑に揺蕩う心を表現する。
『仮面舞踏会』『鐘』で観衆を魅せた表情とは違う、別の顔を覗かせるタチアナコーチのコレオもまた、気まぐれなように見えながら、実に巧く計算され、筋の通った才覚者の仕事だった。


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こんばんは。「カプリース」は本当に魅力的なプログラムだと思います。観ながら自然に笑顔になってしまうような明るさを感じますし、フィンランドの解説の方の言われるように、切れ目のない贅沢なEXですよねぇ。「チャンピオンのEX」として、観客の方たちも満足されたに違いないと思います。浅田選手、ピンク似合いますしね。
クラシックに明るくなく、演奏技術にもうといため、「超絶技巧」を理解する力もないのですが、「技巧」を聴かせるというものでもないのでしょう?全体をよくするためのものではないかと思います。ざっくりした言い方ですが。だからきっと詳しくわからない人にも全体として「なんだか魅力的~」というものに聞こえるんだろう、と。・・まとまりのない文ですみません・・。
2010/4/21(水) 午後 10:09 [ pke*k*_pi_n*an ]

こんばんは。先日SOIの大阪公演で浅田選手の生「カプリース」を見る機会に恵まれました。高橋選手の「道」とともに、この人は別格だと再認識した瞬間でした。信じられないほどのスピード感の中で演じられるステップ・スピン・スパイラル。そしてジャンプ。一言で言うならまさに「眼福」。もっと上手い表現ができればいいのですが…。
何回テレビ画面で見ても本当にはわかっていなかったと思い知らされました。見ててホントにわくわく胸が躍り、そして涙が出ました。素晴らしかった。もっともっとこの選手を見ていたいと心底思いました。
2010/4/21(水) 午後 11:31 [ ねねまる ]

同じくこんばんは。「カプリース」大好きなので、翻訳付きの動画が観られて嬉しかったです!! というか、真央ちゃんのEX、みんな好きなんですよ。いつも楽しみなんです。
シーズン始め、スランプに陥ったとき、カプリースをSPに持ってくる案がありましたが、真央ちゃん自身が、扇を持った方がうまくできたと言っていましたし、確かに華やかで、五輪シーズンのEXとして最高ではありましたね。
ただ、凄く彼女に合ったプロで、魅力を引き立たせていると思うので、八木沼さんが「これを競技で観たい!」と熱望したのもわかりますね。 浅田選手の若々しさ、妖艶さ、そしてちょっと勝気な女性、
そんなイメージが湧いてくるようなことを言ってましたが、ホント、
情熱的でちょっぴり高慢な貴婦人が、男達を翻弄しているような艶やかな姿が浮かび上がってくるようですものね。
生「カプリース」を観られたねねまるさま、うらやましいです!
2010/4/22(木) 午前 1:17 [ オレンジ ]

pke*k*_pi_n*anさま
ご訪問うれしいです。
仰るとおり、超絶技巧はひけらかすものではなく、観衆を楽しませるということだと思います。そして浅田選手の切れ目のないプログラムもそうなのだと思います。
タチアナコーチは、詰め込みすぎだの何だの批判されたりしていましたが、選手が能力的に出来なければ、決して無理にやらせたりはしないでしょう。真央は充分出来るわよ、という太鼓判が聞こえてくるような気がします。
2010/4/22(木) 午後 3:41 [ まさきつね ]

ねねまるさま
オレンジさま同様、観るチャンスがおありになったこと、うらやましいです。一般人よりもっとしっかり、観る機会がある筈のライターや報道陣は、きちんと感動を伝えて欲しいものですね。
フィンランドや各国の解説者の方が、日本の解説者よりも気持ちを包み隠さず称賛しているなんて、やはりおかしな話ですよね。
2010/4/22(木) 午後 3:47 [ まさきつね ]

オレンジさま
そうですね。今シーズンはEXで楽しませてもらって良かったのですが、まさきつねも競技プログラムで観たいと思いました。
きっとこうしてEXでも気を抜かず、しっかり滑り込んでいることが、今後の担保になっていくのしょう。昨シーズンのFSが今シーズンのSPに生かされたのですから。やっぱりタチアナコーチは、只者ではないとしみじみ感じています。
2010/4/22(木) 午後 3:56 [ まさきつね ]

カナダは現在真夜中ですので、こんばんは。
WCは、CBCの放送で、EXも日曜日たっぷり2時間で、解説者推奨のLP付き(ペアだけは、2位のドイツのアリオナ&ロビン)でした。カナダは時差の関係で、地域によって放送時間がずれるため、時間の重なりがありますが、都合4回楽しめます。で、都合4回楽しみました。
http://www.youtube.com/watch?v=9HbZ19Z8-Eo
が、浅田真央選手のCBCバージョンのEXです。
CBCおなじみの解説者カート氏は、絶賛ベタ褒め、一方相方のトレーシー女史(SPでは、褒めちぎって、得点が出た時の観客の点が低すぎることに対するブーイングも的確にコメントしてたのですが、LPの時、何か的外れなしょーもないコメントをしてました。これも何かのロビーイング?のせいかも知れませんね。)もこのプロをsensational choreographyと賞賛し、来シーズンの競技会で見たいと言ってました。勿論、カート氏もYes she willでした。
2010/4/23(金) 午後 1:23 [ can*dak*ra ]

can*dak*raさま
真夜中のご訪問うれしいです。カナダは時差で放映されるのですね。
日本はあいかわらず妙な時間帯の放映で不評でしたよ。皆さま先刻承知で、ネット観覧されるのでしょうけれどね。
EXの評価が高いというのは、選手のポテンシャルが高い証拠ですよね。来シーズンが楽しみなプログラムでした。
2010/4/23(金) 午後 5:16 [ まさきつね ]

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