月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

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浅田選手の表現力について思うこと 其の参 舞踏する肉体


「空のない世界」ソーニャ・ビアンケッティ
http://www.soniabianchetti.com/writings_sky.html

まだ十七歳ですが、ヨナは成熟したスケーターです。彼女の技術は本物ですし、氷上では美しい動きをします。彼女は見る喜びといえます。(中略)浅田真央の技術も本物です。そして、彼女は非常に表現力が豊かで芸術的ともいえます。彼女の振り付けは、音楽をとり囲むように構成されています。そして彼女は心のこもった滑りをしたのです。

。。。。。。。。。。。。。。

結局、脱線記事を挟んで三回に渡ってしまったが、とりとめのないことばかりを書いてしまった気がする。
先に述べておくが(いや、其の壱の最初に言っとけよニャン。)、フィギュアファンの間では浅田選手の表現力が高いことは常識であるし、タチアナコーチが記者に問われた質問に対し、「(真央の表現力に)問題ありません」と答えたことも知れ渡っている。

その一方で、選手の「表現力」云々と、いかにもその力量差が選手の得点や順位結果にそのまま結びついているような話が、マスコミ報道を通じて今だに一部でまかり通っているので、一石を投じたいと始めた論考だった。
それなのに、観る側の感受性や、演技における表現性の違いといった話に脱線して、肝腎の「表現力」に言及していない。
本末転倒であろう(汗)。

プルシェンコ選手に関して書いた前の記事で、キム選手とのPCS比較をし、五輪以前の二選手が、どのような個体差を持っていたか読み解いた。
あの程度の洞察は、一部のファンの間ではすでに共通理解の範囲であるが、常套句として言われるのが「演技力のヨナ、表現力の真央」ということらしい。
他へアプローチする演技力で勝るのがキム選手、独創性に充ちた表現力で勝るのが浅田選手といったところだろうか。


ところで、まさきつねは強いて付け加えて言うなら、二選手の演技の中の「踊り」という側面に焦点を当てて、「舞踊」と「舞踏」の違いではないかという風に捉えている。

「舞踊」と「舞踏」の概念の違いは、(これも元々は人によってさまざまあるだろうが、)とりあえず一般的な解釈で説明しよう。

「舞踊」という日本語自体は、「舞い(廻る)」と「踊り(跳躍する)」の合成語で明治時代に確立したものだが、いわゆるdance (仏danse)に相当するという。すなわち、本来対照的な身体表現である筈の、地面に対し水平な動きの「舞い」と、垂直な動きの「踊り」が一体化した身体創作芸術を総称したものである。

これに対し、「舞踏」はもっと狭義的に捉えられ、明治には「鹿鳴館」の舞踏会で踊られる、いわゆるソシアルダンスを意味したようだが、1960年代ころからは海外でもbutohと知られるようになった前衛舞踏などを「舞踊」の中の一ジャンルとして「舞踏」と称することになった。

つまり煎じ詰めて説明すると「舞踏」というのは、西洋的なダンスにしろ「暗黒舞踏」などのコンテンポラリーなダンスにしろ、地面を「踏む」という動作、脚を使ってリズムを刻むステップという要素を重視する「舞踊」と把握して無理はあるまい。

さらに、まさきつねの個人的な考察を入れると、仕草に感情を込め情景や意図を表現すると同時に、人に見せて楽しませる外的な働きの強い「舞踊」に対し、ステップで音楽を捉え自己表現として追求していく内的な動きを見せる「舞踏」と分析し、前をキム選手、後を浅田選手の踊りの特性と考えている。

冒頭に挙げたビアンケッティ女史の2007年のGPF批評では、キム選手の演技は「a joy to watch(見る喜び)」と語られ、浅田選手は「skated with her heart(心のこもった滑りをした)」と評されているが、あのころからも各自の個体性は根源的に変わっていないのだと思う。

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二人の踊りを「美しさ」の観点からさらに読解すれば、キム選手のランのスピードや伸びやかなストロークは、それはそれで素晴らしいが、エッジを使い分けた踊りとしての面白みはない。
彼女の演技を「美しい」とか「完璧」と評価する人は大概、モーションの後の一呼吸で彼女が決めるポーズ、歌舞伎で言えば見得のような仕草(指ぱっちんのことかニャン?)に幻惑されている場合が多いのではないか。
そしてこのような一時停止の表情やポジションこそ、美しいと同時にある種の古臭さを纏ってしまう古典的表現に他ならない。

ボンドガールというキャラクターに記号化された肉体、初見の人には魅力的でも、ありきたりな振り付けと演技のパターン化からはまぬがれ得ず、綺麗だがつまらないという飽食状態から来る感想を認知せざるを得ない。
プログラムの「スカスカ」という批判が適切とは必ずしも思わないが、同感の気持ちを起こさせるのは、技術の劣化よりも尚悪い、演技表現としての簡略化とマンネリ化した所作の繰り返しという、スポーツとしては一種の横着さに相当するような競技姿勢に対する嫌悪感が招くのである。


浅田選手の演技の方は、皆さまご覧のとおり、要素からトランジションを挟んで次の要素へと続き、動きとして流れて、ほぼ一瞬も止まることがない。
『鐘』の演技表現にはいくつかのけれん味の強い決めのポーズが挟まれていたが、全ての動作が停止することなくリンクして、次の技へと繋がっている。
あれほどの細やかな動きと柔軟性に充ちたポジションを、優雅さを失うことなく滑らかにこなしていく、まさに一瞬の息もつかせぬ迫力である。

華麗なステップは、SP『仮面舞踏会』の歓びに溢れた可憐な舞踏だった。
そして怒号のステップは、FS『鐘』の、踏みしめる大地から唸るように噴き上がる心の解放を求める身体表現だった。

だがこうした踊りの皮相的な解釈をさておいて、観衆がある種のトランスに似た感覚に巻き込まれていく背景には、楽曲がタチアナコーチによる振り付けとして巧みに構築されているのに加え、リスクの大きい3Aやツイズルなどの難度の高い技にあくまでも拘る、浅田選手という特異な身体能力を持つ肉体の存在が関わってくる。

記号化やパターン化を拒否するアスリートの肉体が、躍動し、廻り、跳躍し、足を踏みならすという踊りの根源的な動作に、観衆を凝視させて放さないのである。
氷上を飛び跳ね、回転し、滑りながら空間を横切っていくスケーターの、自由に解き放たれた肉体の佇まいに、釘付けにされてやまないのである。

まさに舞踏する肉体が空間を支配し、密度の濃い時間を鷲掴んで、身体臨界を超えた揺さぶりを時空のさなかに構築する芸術としての変容を遂げた瞬間である。
トランス(陶酔)状態にもなろう。


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まさきつね様、面白い発想の解説読みました。成る程と思います。

私はアメリカ在住でオリンピックはNBCのヨナ上げでうんざりしました。「こんな素晴らしい演技は初めて見た」だの「スピードがある」だの、真央ちゃんを映さないだの、どうしたの?????

スピードについてです。ヨナのスケートはリンクに沿って楕円を描いてぐるぐる回っている演技であるし(横への動き)、真央ちゃんは楕円の短い直径の部分を滑っている(縦への動き)ように感じます。ヨナの場合アイス・ホッケーでの一回り狭いリンクで練習しているために楕円をぐるぐる回るしか動きができないのです。他人からみれば、背後の壁が超特急で動き回るように見えます。しかし、真央ちゃんは縦に動いていて、カメラが前面から映しているので止まって見えるのではと考えます。

一日も早いルール改正が行われますように。
2010/3/25(木) 午後 0:22 [ HUG ]

まさきつね様、いつも読みきってしまいます。

思うに、真央ちゃんのそれは、3Aとともにいつも最高のパフォーマンスを演じようとしてくれる、ゾクゾク感、火山の噴火のような爆発感、その変化と美しいビールマンに見られるような優雅なスケーティングが人を釘付けにしてやまないように思います。正に、舞踏する最高の肉体、で、これがまた若干19歳の清楚な女の子です!もうおば様はメロメロ!
で、ついでに昨日SPの大輔さんを見て・・・大輔さん、真央ちゃんのコーチしてくれないかな~、現役中からは早すぎるか、大輔さんなら真央ちゃんの心を大切にしつつ、最高のパフォーマンスを引き出せる存在になりうるのでは思いましたのです。まさきつねさまいかがでしょう・・大ちゃんたのむう~
2010/3/25(木) 午後 1:37 [ jun*u*noma*a ]

HUGさま

なるほど、ヨナにスピードがあるという評判は、実は「目の錯覚」だったのか!だから客席からのホームビデオ撮影映像と、テレビとの印象が違うのですね。昨季の4CCやワールドの小さいリンクもわざとだったのかもしれません。

観客席から見ると、ヨナのスピードは冒頭の3+3以外は普通のスピードで、五輪でも浅田の方がスピードがあったという話が聞こえてきます。客席から撮ったヨナは迫力も表現力もない普通の滑り。

話が違いますが、五輪の最後の公式練習で、浅田の曲かけ中、最後のステップの部分で浅田は、リンク中央をチラチラと見ながらステップを踏まず、最後にステップを踏み終わる位置に移動した時、そこでヨナと接近遭遇したのを見ました。

あの時ヨナは、リンクの反対側から堂々と浅田の曲で自分のステップを渾身の力で踏んでいたんです。それを関係者は黙って見つめ、解からないように放送し、アナも解説も何もいえなかったようでした。あれが本当の練習妨害だろうに。

五輪前のNBCの理解不能なヨナ上げも凄かったですが、こんな事が起きる理由を知りたい。

今、NBCはどうですか?
2010/3/25(木) 午後 2:11 [ エミリン ]

私は別に浅田さんのファンじゃありませんが、サーシェ・コーエン以来初めての「背筋で何かを表現できる選手」が浅田さんだと思います。
フィギュアスケート選手の「ドヤ顔」は美しくありません。。
2010/3/25(木) 午後 3:29 [ nano ]

まさきつね様のその表現力にはいつも敬服しております。
今回も「さ・す・が」でした。ありがとうございます!私の言いたいことでした。(まさきつね様みたいな文章力も才能もなくイライラしておりました。)
バンクーバーのキム選手の演技は電気店の超大画面で観ておりましたのでまるでリンクの中にいるようでしたが、グラグラで少しも美しいとは感じませんでした。(これなら真央選手が勝ちだ!と思いました)今回、是非金メダルを真央選手にとって欲しいです。が・・・・・いろいろあるみたいなのでまだヨナ選手アゲアゲ点になってしまうのでしょうかね?(ショック)
2010/3/25(木) 午後 4:36 [ くろくん ]

HUGさま
アメリカからご訪問うれしいです。
北米は本当に結託して、ロシア欧州勢や日本を徹底的に排斥したのですね。聞きしに勝る非道さですね。
キム選手のスピードについては、巧みなロビイングの効果だろうとまさきつねも思っています。基本的にはスピードスケートじゃないんだから、ランばかりを評価するってどーよ? と感じますが、こんなジャッジの偏重を言い出したらきりがないのが、現状ですから…
それにしても、実際に演技を観れば、鍍金はすぐに剥げ落ちてしまいますね。
2010/3/25(木) 午後 9:05 [ まさきつね ]

jun*u*noma*aさま
ご訪問うれしいです。
高橋選手も、四回転ジャンプのこつならいつでも…なんて言ってましたね。プルシェンコやロロや、浅田選手モテモテですね。
賢明な彼女のことですから、いろんな方からアドバイスをいただいて、一番好い選択をするでしょう。一所懸命スケートをすることによって、スケートを愛する人たちから誰よりも愛される、浅田選手がそんな選手であることは確かですね。
2010/3/25(木) 午後 9:14 [ まさきつね ]

エミリンさま
ご訪問うれしいです。
まさきつねも公式練習の映像を見ました。あんなひどいマナー違反はいけませんよね。他の選手への威圧が、女王オーラだと勘違いしてるのだとしたら、これもオーサー仕込みでしょうか。
2010/3/25(木) 午後 9:24 [ まさきつね ]

nanoさま
ご訪問うれしいです。
アスリートの身体が語るものは、何より美しいとまさきつねも思います。ドヤ顔は、もうお腹いっぱいです。
2010/3/25(木) 午後 9:28 [ まさきつね ]

くろくんさま
初めまして。
ヨナとカナダ選手アゲアゲは、今シーズンお約束のようですしね。ジャッジもルールが改正されるまでは、整合性を付けないと自分の首を絞めることになりかねませんから。…
浅田選手には、悔いなく来季に繋がる演技をして欲しいですね。
2010/3/25(木) 午後 9:39 [ まさきつね ]

…さま
初めまして。
素敵な思い出ですね。五輪は残念でしたが、最悪の思い出がとびきりの思い出の序章となることを願います。禍福は常に人生の表裏です。
いつでもお越しになり、何でもお話ください。お待ちしています。
2010/3/25(木) 午後 9:47 [ まさきつね ]

おはようございます。
ヨナ選手妨害の件、他の選手とかはなにも思わないんでしょうか?
真央ちゃんの曲がかかってる時、真央ちゃがリンクの端で、ヨナ選手に気を使いながら・・・て言うビデオも見せてもらいました。
もうびっくりです。(誰も自分のこと以外、関係者でも関係ないのか・・・)
2010/12/19(日) 午前 8:08 [ biko ]

bikoさま
キム選手は五輪の公式練習では、日本選手らとは別にされたのですが、エストニアの選手にも妨害されたと抗議して、グレボワ選手が自分のブログで謝罪するという一件がありました。
公式練習は先日の高橋選手と小塚選手の衝突もありましたが、元々大変危険なのです。ですから危ないことを承知している選手たちは、お互いさまという認識で練習するのが当然で、相手に悪意を持って妨害するなどということは絶対にありません。これは不文律の話です。
キム選手の抗議は明らかに礼儀違反で、不文律を破るものでした。
グレボワ選手も日本の選手も、キム陣営が起こした騒ぎの被害者でした。そのことはほかの選手は勿論、フィギュア関係者なら誰もが口にしなくても分かっているのです。
2010/12/19(日) 午前 9:37 [ まさきつね ]
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