月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

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水銀の雨

注文10

水銀の苦悩のごとき雨が降る
六月の朝

おまえはしずかな悲しみに病みながら
レイン・コートの前金具を止めて
市場に出かける身支度をする

丹精を込めて育てたものたちが
おまえの手を離れるとき
おまえの胸には 一輪の弔いにささげた
花が咲きくずれる瞬間のような
別離の思想がよぎるだろう

そうして午餐の刻になれば また
何ごともなく
笑いを知らぬ獣らの眼をして
聖なる孤独の祈りをとなえるのだ

*********************


 僕等の乗つた省線電車は幸ひにも汽車ほどこんでゐなかつた。僕等は並んで腰をおろし、いろいろのことを話してゐた。T君はついこの春に巴里(パリ)にある勤め先から東京へ帰つたばかりだつた。従つて僕等の間には巴里の話も出勝ちだつた。カイヨオ夫人の話、蟹料理の話、御外遊中の或殿下の話、……
「仏蘭西(フランス)は存外困つてはゐないよ。唯元来仏蘭西人と云ふやつは税を出したがらない国民だから、内閣はいつも倒れるがね。……」
「だつてフランは暴落するしさ。」
「それは新聞を読んでゐればね。しかし向うにゐて見給へ。新聞紙上の日本なるものはのべつに大地震や大洪水があるから。」
 するとレエン・コオトを着た男が一人僕等の向うへ来て腰をおろした。僕はちよつと無気味になり、何か前に聞いた幽霊の話をT君に話したい心もちを感じた。
(芥川龍之介『歯車』)


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