月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

小さな庭の祈りを

フィギュア306-1


温かいコメントでご指摘をいただいた。

まさきつねを気遣っていただいたのか、わざわざ秘コメでくださったのだが、まこと恥ずかしい間違いだったので一部内容をご紹介するとともに、急遽、訂正と再考の記事をUPした。
コメントをくださった方には心から感謝申し上げる。


まずコメントの内容は以下の通り。

「ショートで3F-3Lo 3A 3Loはルール上ダメですよ。3Lo-3Lo 3A 3FならOKですが
浅田選手のルッツはなかなかエラーマークが取れないとはいえ矯正がうまくいっているように見えるので、個人的には3F-3Lo 3A 3Lzという最強構成に期待しています」

浅田選手のSPにおけるジャンプ構成の件だが、まさきつねが『光が』の記事で挙げていた3F-3Lo 3A 3Loの構成はザヤックルールに抵触するので、3Loが無効になる。

まさきつねは今季の浅田選手の構成が3F-2Lo 3A 3Loだったのから、うっかりセカンドジャンプをそのまま単純に三回転にしてしまったが、ものの見事にルールの罠にはまってしまったという訳だ。
そこで仕切り直して、コメントにもあったように、では理想(かつ最強)のSPジャンプ構成はということだが、とにかく歴代のジャンプ構成を並べてみて、一考してみることにする。

●2005-2006シーズン
「カルメン」基礎点19.80
3Lz     6.00
3F+3Lo  10.50
2A      3.30
●2006-2007シーズン
「ノクターン」基礎点19.80
3Lz     6.00
3F+3Lo  10.50
2A      3.30
●2007-2008シーズン
「ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア」基礎点20.00
3F+3Lo  10.50
3Lz     6.00
2A      3.50
●2008-2009シーズン
「月の光」基礎点20.00
3F+3Lo  10.50
3Lz     6.00
2A      3.50
●2009-2010シーズン
「仮面舞踏会」基礎点18.50
3A+2T   9.50
3F      5.50
2A      3.50
●2010-2011シーズン
「タンゴ」基礎点21.21
3A      8.50
3Lo      5.61
3F+2Lo   7.10
●2011-2012シーズン
「シェヘラザード」基礎点21.21
3A      8.50
3F+2Lo   7.10
3Lo      5.61
●2012-2013シーズン
「アイ・ガット・リズム」基礎点21.21
3F+2Lo   7.10
3A      8.50
3Lo      5.61


いかがだろう。

途中、単独の3Aが女子でも認められるなどのルール改正があったり、試合ごとに微妙に構成を変えたり、ダウングレードによる減点対策をしたりと、さまざまな苦労がある中でジャッジの傾向変化に対応しながらも、難度を下げないジャンプに挑戦してきた様子が読み取れる。

3Loを3Lzにして、3F-3Lo 3A 3Lzで完成させるというのは現実的に難しいという論評もよくうかがう。だが、十代初め数年の構成からみると、アクセルの精度を上げていけば決して無理ではないのかという気もする。
ファンからすれば、3F-3Loの連続ジャンプ復活だけでもうれしいという、千秋の思いがついにという構成だろう。

確実性を考えると、3F-3T 3A 3Loもしくは3Lo-3Lo 3A 3Fという構成が候補に上がってくる。しかしシーズン歴代の先例から考えると、セカンド3Tよりも3Loの方が浅田選手には跳びなれていて馴染みの深い構成なのかと推測できる。

3Lo-3Loを練習していたという話も耳にしたが、フリーではあまり旨みのないコンビネーションなので、SPで使用するという選択肢はセカンドジャンプが二回転になったとしてもリスクが少なく、もしかしたらという気がする。
ただ、今季までの流れからしても、五輪シーズンにあまり冒険はできないという常識からしても、今現在、もっとも現実的に考えるとやはり、3F-2Lo 3A 3Loの精度を上げていくのが最善ということになるのだろう。


フィギュア306-2


ちなみにややこしい、「フリースケーティングにおける同じ種類のジャンプの回数制限」に関するザヤックルールだが、この機に、その基本的な三つの約束事を上げておく。


1)3回転以上の同じジャンプ(※種類と回転数がまったく同じジャンプ)を3回以上跳んではいけない。3度目以降のジャンプは(コンビネーションであればまるごと)無効になる。

2)3回転以上のジャンプで3種類以上の同じジャンプを複数回跳んではいけない。3種類目の2度目以降のジャンプは(コンビネーションであればまるごと)無効になる。

3)3回転以上の同じジャンプを2度跳ぶときは、少なくとも1度はコンビネーションジャンプかジャンプシークエンスにする。どちらも単独で実施された場合、後に実施したものをセカンドジャンプ不明のジャンプシークエンスとして扱い、コンビネーション、シークエンスとして数えることにする。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

何度読んでも、これはまともな日本語かと思うような文章だが、実際このザヤックルールはコンビネーションの回数制限違反と絡んで、選手たちがセカンドジャンプの失敗をした際にいかにリカバリーをするかという問題をはらんでいる。

近年は四回転を跳ぶ男子選手が当たり前になってきたので、さらに複雑になり、回数違反を畏れて跳べるセカンドジャンプを控えてしまったり、逆に単独の高難度ジャンプに失敗したためにセカンドで三回転ジャンプを追加し過ぎてみすみす全部が無効になったりと、それこそ微妙な勝負どころを決定づける要素になっているのだ。

こうした失敗を防ぐためにはやはり、コンビネーションの失敗を念頭にした練習や、シンプルなリカバリーで失敗を取り戻せるようなジャンプ構成を考えるなど、極力リスクを排除した戦略が必要になってくるのだが、まずは心理的な苦手意識を克服しつつ、いかに難度の高いジャンプに選手たちが挑戦して、少しでも拾える基礎点をどうやって上げるかということを純粋に追求してからの話だ。

浅田選手のSPのジャンプ構成がどうとかという話にしたって、ただ高難度の技を決めるというだけでなく、つなぎや表現にまで気を配らなくてはいけないプログラムの中にそれをいかに融合させて、美しくバランスのとれた演技に昇華していくか、この難問を乗り越えて成立する議論なのだ。

(ちなみに「あいかわらずのジャンプ」としかいいようのないキム選手のジャンプ構成もまた、数年来あいかわらずの内容だ。

2005-2006年シーズンの3F-2T 3Lz 2A(基礎点16.10)をさすがに翌シーズンからセカンドを3Tに上げたものの、それからずっと変わらず五輪シーズンまで3F-3T 3Lz 2A(基礎点19.00)の構成で、変わらぬルーティン、長い助走で機械のように変わらぬモーションから同じ軌道のジャンプを跳び続けている。
ISU推奨のお手本ジャンプ、あるいはヨナ=スタンダードと呼ばれる所以だが、延々同じものを毎年見せられる側とすればもはや拷問に等しい。

五輪シーズンには3Lzと3Fを入れ替え、3Lz-3T 3F 2Aの構成にしているが跳んでいるジャンプの種類は変わらず、また基礎点も同じ19.00である。そして復活した今季もそっくり同じ構成で、おそらく今後も変える予定は微塵もないだろう。

とはいえ、五輪のころからまったく変わらないと言われれば印象としては確かにそうかもしれないが、細部の劣化、特にジャンプの入りでの助走の長さ、沈み込み、溜めモーションのもたつきなど、練習不足と寄る年波がじわっと与えている動きの乱れはごまかしようがない。

ぎこちなさを最小限に抑えようとエッジを浅めに、さらにスピードを上げるためにクロスストロークで必死に漕いで流れを作っているが、雑然としたトランジションで演技全体のスケール感が失われ、パフォーマンスからは繊細なつなぎが演出する面白さも、粘りのある情熱的な表現が盛り上げる高揚感も一切が削ぎ落とされて、身体的表現の中で魅了させられる造形や作品としてのテーマがまったく浮き出されてこないのである。)

(こんな言い方をしたくはないが)たっぷりとGOEさえ付けばどんなジャンプだって同じという理屈なのかも知れないけれども、使用曲や演技の内容によって、どの種類のジャンプをどのタイミングで跳び、次のどんなエレメンツにつなげるか、そういう楽しみを観客にもたらしてこそ、フィギュアスケートがスポーツの領域を超えてその芸術性を問えるということではないのか。

だからこそ、浅田選手のジャンプ構成をめぐってファンは一喜一憂し、彼女の挑戦を心から歓迎し、その完成を待ちわびる。

基礎点を一点上げるために、その精度を高めるために一体どれほどの努力が必要か、リスクや失敗を恐れずに研鑽を重ねる選手たちの、その血の滲むような思いを嘲笑うかのようなGOEによる底上げなど、何度考えても理不尽に尽きると思わざるを得ないのである。


フィギュア306-3

フィギュア306-4


ところで、今日も三月だというのに日中、肌寒かった。
庭のムスカリの群生を揺らす、冷たい風が吹いた。

人の世に吹き荒れる雨と風は、庭の小さないのちにも他所事ではない怖さだろう。

だがわずかだけど、芝を温めている陽だまりの中で隣の家の猫が顔を洗い、わずかだけど枝に残ったヌルデの実を小鳥らが啄ばみ、わずかだけど優しい春が、山のあちこちを淡くにじむ桃色の水彩絵具で塗り変えはじめている。

新しい季節が来るのだ。

祈りのような、美しい季節が。


フィギュア306-7

一 草の実
小さな祈りが葉のかげで実っている

二 祈り
それは宝石のように小さな函(はこ)にしまえる
小さな心にもしまえる

三 カエデの赤い芽
空をめざす小さな赤い手の群(むれ)  
祈りと知らない祈りの姿は美しい
(高見順『庭で』)


フィギュア306-5


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