月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

黄色い煉瓦道をたどって

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☆мao @sada Grand Prix Final Exhibition/ Gala☆


黄色い煉瓦道をたどって進もうね
黄色い煉瓦道を進もうね
進んで進んで進んで進んでね
黄色い煉瓦道を進もうね

嵐の彼方の虹をたどって
夢を抱く仲間たちと一緒に
進んで進んで進んで進んでね
黄色い煉瓦道を進もうね

私たちは魔法使いに会いに行くの
素敵な魔法使いオズよ
オズは天才、魔法使いの中の魔法使い
並ぶもののない魔法使いよ

なぜって、それは
知らないの彼はね
なぜってなぜってなぜってなぜって
彼はとても素晴らしい魔法を使うのよ

だから私たちは魔法使いに会いに行くの
素敵な魔法使いオズよ

Follow the yellow brick Road
Follow the yellow brick Road
Follow,follow,follow,follow
Follow the yellow brick Road

Follow the rainbow over the stream
Follow the fellow who follows the dream
Follow,follow,follow,follow
Follow the yellow brick Road

We're off to see the Wizard,
the wonderful Wizard of Oz.
We hear he is a wiz of a wiz
If ever a wiz there was.

If ever, oh ever, a wiz there was,
the Wizard of Oz is one because,
because, because, because, because, because-
because of the wonderful things he does.

We're off to see the Wizard,
the wonderful Wizard of Oz
(エドガー・イップ・ハーバーグ『オズの魔法使いに会いに行こう』)

☆Follow The Yellow Brick Road The Wizard Of Oz YouTube☆
☆Wizard of oz we're off to see the wizard.☆


『オズの魔法使い』に関してはもう何度も取り上げたので、繰り返しになる部分も多くなって申し訳ない。

とりあえず、まずお伝えしたいのが2004-2005年シーズンのSPと、2005-2006年シーズンのEXは、まず振付がミラーからローリー・ニコルに代わり、さらに音源も、オーケストラ盤からヴォーカル入りのものへ変えられている違いがあるという点である。

競技用から、アイス・ショーのエンターティメント性を重視したものへということだが、音楽も『虹の彼方に』のヴォーカルの前に『オズの魔法使いに会いに行こう』という、いわゆる黄色い煉瓦道をドロシーたちが通ってオズを探す冒険に出かけていく場面に流れる楽曲が付け加えられ、かなり演劇的な演出と細やかな演技的表現が際立つ構成になっている。

この冒頭の楽曲部分とヴォーカル部分の二部構成にしたことが、さらに次のシーズンで愛犬エアロとともに共演した際には効果的に働いて、エアロを抱いて滑る場面と、愛犬を失ってひとり虹を求めてさすらう場面という視覚的変化で、より演劇的な面白さをEXにもたらしていた。

音源に関してだが、冒頭の『黄色いレンガの道をたどってFollow The Yellow Brick Road』と『オズの魔法使いに会いに行こうYou're Off To See The Wizard』の部分は、昨季と同じジョン・ウィリアムスによるものだが、彼の指揮によるオーケストラ演奏ではなく、ウィリアムス自身のクラシック・ギターによるフィルム・スコア演奏のアルバムから採っている。

ムーディなギターの音にきらきらした旋律が拾われて、映画の一場面が目に浮かぶようなエキサイティングな構成もウィリアムスらしい。
サントラからそのまま音源を使用しなかったのは、おそらく主となるヴォーカルとのバランスを取って、ギターのメロディーラインだけでメリハリを利かせたのだろう。

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【音源】ジョン・ウィリアムス『Plays the Movies』より7曲目

1. Kiss From A Rose from Batman
2. Everything I Do from Robin Hood
3. Unchained Melody from Ghost
4. Love is all around from Four Weddings and a Funeral
5. "The Godfather (Love Theme, Godfather Waltz)"
6. Moon River from Breakfast at Tiffany's
7. "The Wizard of Oz (We're off to see the Wizard, Over the Rainbow)"
8. "The Mission (Gabriel's Oboe, Mission Theme, On Earth as it is in Heaven)"
9. Cavatina from The Deer Hunter
10. As Time Goes By from Casablanca
11. I Will Wait For You from Les Parapluies de Cherbourg
12. It Had To Be You from When Harry Met Sally
13. Calling You from Bagdad Cafe
14. The Entertainer from The Sting
15. Il Postino
16. Once Upon a Time in America from Once Upon a Time in America
17. Jill's America from Once Upon a Time In The West
18. Schindler's List

☆We're Off to See the Wizard (The Wizard of Oz) - Harold Arlen - John Williams☆


ヴォーカルの方は以前の記事でも書いたが、エヴァ・キャシディではなくリンダ・エダーの1997年のアルバム『It's Time』からの選曲と思われる。
リンダの伸びやかな声が虹の彼方へいざなう善い魔女のやわらかなささやきのように、冷たい輝きを放つ氷の上に響く。

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【音源】リンダ・エダー『It's Time』より5曲目

1. It's Time
2. I Want More
3. I'm Afraid This Must Be Love
4. Don't Ask Me Why
5. Over The Rainbow
6. Big Time
7. When Autumn Comes
8. Man Of La Mancha (I, Don Quixote)
9. I Don't Know How To Say Good-Bye
10. Candle In The Window
11. The Last Tango
12. Unusual Way
13. Only Love
14. The Children Of Eve
15. Something To Believe In
16. Someone Like You

☆Lyrics: Over The Rainbow - Linda Eder☆


さて以前に、写真家アニー・リーボヴィッツとデザイナーたちによる『不思議の国のアリス』の世界をお届けしたが、今回は、リーボヴィッツがキーラ・ナイトレイをドロシーに据えて撮影した『オズの魔法使い』のシリーズをご紹介。

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Annie Leibovitz, Vogue and the Wizard of Oz

Kara Walker is Glinda the Good Witch, John Currin is the Tin Man, Brice Marden is the Scarecrow, Jasper Johns is the Cowardly Lion, Chuck Close is the Wizard, Jeff Koons as a flying monkey, and Kiki Smith is the Wicked Witch.

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It's a Twister
"Henry! Henry! I can't find Dorothy! She's somewhere out in the storm!" cries Vogue's Auntie Em, actress Alba Clemente, to Uncle Henry (her husband, the painter Francesco Clemente). Vera Wang snow-white embroidered dress.
(『竜巻出現』「ヘンリーヘンリー!ドロシーがいないわ、きっと嵐の中よ!」泣き叫ぶエマ叔母さんをアルバ・クレメンテ、ヘンリー叔父さんをフランチェスコ・クレメンテ。ヴェラ・ヴォンの白い刺繍入りのドレスのドロシー) 

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Munchkinland
The Penn State Marching Band sends Dorothy off to Oz, as artist Kara Walker, playing Glinda the Good Witch, looks on. From left: Dior Haute Couture by John Galliano ball dress. Marc Jacobs dress and ruby T-strap sandals.
(『マンチキンの国から旅立つ』カラ・ウォーカーが善い魔女グリンダでドロシーをペンシルバニア州マーチング・バンドの演奏とともにオズの国へ送り出す。ジョン・ガリアーノのディオール・クチュール製ドレスがグリンダ、マーク・ジェイコブスのドレスとルビー色のTストラップのサンダルがドロシー)

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If I Only Had a Brain
"Do you think if I went with you this Wizard would give me some?" asks painter Brice Marden, the Scarecrow. Balenciaga.Edition by Nicolas Ghesquière crinkled dress. Balenciaga ankle-strap sandals.
(『僕に脳味噌があったなら』「きみといっしょにオズのところに行ったら、脳味噌がもらえるかな?」ブライス・マーデンのかかしが尋ねている場面。ニコラス・ゲスケールのバレンシアガ製皺加工のドレスとアンクルストラップの靴を着けたドロシー)

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Oil Me, Please
"Why, it's a man! A man made out of tin," Dorothy gasps upon sight of painter John Currin as the Tin Man. Oscar de la Renta rose-pink pinafore dress and white blouse. Lanvin velvet pumps.
(『僕に油を差して』「何故ってそれがないとブリキで作った体には耐えられないのさ!」とジョン・カーリンの木こりが懇願。オスカー・デラレンタによるローズ・ピンクのエプロンドレスと白いブラウス、ランバンのベルベットパンプスを着用)

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Oh, My!
"Why, you're nothing but a great big coward," Dorothy accuses the Lion, sculptor Jasper Johns. "You're right," he replies. "I haven't any courage at all. I even scare myself." Rochas frilled dress and sequined pumps.
(『ああ!僕ね』「何故あなたは並ぶもののない偉大な臆病者なの」とドロシーがジャスパー・ジョーンズのライオンを責める。「きみは正しいよ」とライオン。「僕はからっきし勇気がない。だって自分で自分が怖いんだもの」ロシャスのフリルのドレスとスパンコールのパンプス着用)

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Emerald City
"Look, you can see it here. It's wonderful!" shouts the Tin Man. Lanvin full-skirted dress and patent-leather heels.
(『エメラルドの都に向かう一行』「ほら、ここから見るととっても素敵だよ」とブリキの木こり。ランバンのフル・スカートドレスとエナメル革のハイヒール着用)

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The Wonderful Things He Does
"The beneficent Oz has every intention of granting your requests!" bellows painter and photographer Chuck Close as the Wizard. Comme des Garçons robe dress. Comme des Garçons x Repetto Mary Janes.
(『彼は偉大』「慈悲深きオズがきみたちの要求をすべて叶えてあげるさ」チャック・クローズの魔法使いが大言壮語。コム・デ・ギャルソンのローブドレスとメアリー・ジェーンズのレペット靴)

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I'll Get You, My Pretty
The Wicked Witch's winged monkey—played by artist Jeff Koons—seizes Dorothy and soars over the haunted forest. Donna Karan New York ruffled dress. Christian Louboutin heels.
(『つかまえた、いい子だね』邪悪な魔女のさしむけた飛ぶ猿男に扮したジェフ・クーンズがドロシーを捕え、お化けの森を越えてゆく。ニューヨークデザイン、ドナ・キャランのラッフル・ドレスとクリスチャン・ルボタンのハイヒール)

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Ding Dong!
Artist Kiki Smith, as the Wicked Witch of the West, cackles after Dorothy soaks her with water. From left: Yves Saint Laurent silk pleated dress and platform loafers. Chanel Haute Couture ostrich-feather cape.
(『デイン・ドン!』キキ・スミスが扮した西の悪い魔女は、ドロシーがバケツの水をぶちまけると融けて消えてしまった。ドロシーはイヴ・サン・ローランのシルクプリーツのドレスとプラットフォームのローファーを着用。魔女はシャネル・オートクチュールのオーストリッチフェザーによるケープを纏っている)


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Troubles Melt Like Lemon Drops
"And I'm not going to leave here ever, ever again, because I love you all! And, oh, Auntie Em, there's no place like home!" Prada ivory dress and cherry apron. Miu Miu glitter Mary Janes.
(『めでたしめでたし』レモン・ドロップがとけるような甘い大団円。「みんな大好き、みんなを心から愛しているから、もうどこにも決して、決して出かけることはないわ! エマ叔母さん、やっぱり家が一番ね!」プラダのアイヴォリー色のドレスと濃いチェリー色のエプロン。メアリー・ジェームスデザインによるミュウミュウのキラキラ靴)

☆Wizard of Oz Photoshoot☆
☆Keira Knightley-Wizard Of Oz shoot☆


ところで、こうして改めてオズの物語を俯瞰してみると、百年余前バウムが創ったおとぎ話が、いかにさまざまな変容や翻案を経つつ、多くの人々に愛されて、ひとつの神話のように残されてきたかということがわかる。

一般の人気が高まる一方なのにも拘らず、批評家や文学の専門家などからはたびたびいわれのない批判や揶揄の対象とされ、発禁の憂き目にさえあうというどこか不幸な背景には、いつの時代何処も同じという感想を抱かざるを得ない気がするのだが、多くの人間がそれぞれに多様なイマジネーションをそそられるストーリーの荒唐無稽さ、個性の強いキャラクターが絡み合う複雑な面白さが多元的な文学的、文化的解釈を生み、それによって積み上げられた多くの議論がさらにまた多くの人々の興味関心をひいて、単純な童話文学の領域を超えた話題性と支持を得てきたのだろう。

現在のところ、オズの解釈を分類すると次の五つに分けられるという。

①創作された当時の政治的解釈
②現実逃避的なユートピアの空想物語
③フェミニズム的解釈
④心理学的、心理治療的モチーフをよむ
⑤心理学、神話学、記号論などを用い、文化論的に解釈


こうした多くのオズ論の中で共通するのは、ドロシーの「家(安住の地)」を求める旅というストーリーと、ドロシーという一少女の形象に、アメリカ人の国民性や宗教的、文化的、さらにジェンダー・アイデンティティ論的な研究を読み取ろうとする傾向だという。

そもそも1900年のアメリカで白人男性によって書かれた物語なのだから、主人公ドロシーの中にアメリカ型のヒーローの典型を探ったり、孤児ドロシーのかかえる家族問題やエディプス問題に、欧州の「親」を失ったアメリカという共和制国家の内包する国家的アイデンティティを模索したとしても何の不思議もないのだ。

そしてこのような多岐にわたる解釈について、作者バウム自身が「わたしは、『オズの魔法使い』を、現代の子どもたちを、ひたすら喜ばすために書きました。…」という原作の序文で私見を述べていることは、以前の記事にも書いたとおりである。

それを念頭にしても、やはり興味深い読解となるのは、オズが二種類の旅を主軸とする物語構成で成り立っており、それゆえに映画『オズの魔法使い』もロード・ムービーの原点というべき位置づけが可能ということであろう。

二種類の旅というのは、ひとつは勿論、ドロシーがカンザスの家を去り、またカンザスの家に戻ってゆく出発と終着の地点が重なる旅であり、もうひとつはドロシーの仲間たち、かかし、木こり、ライオンらがそれぞれに必要な資質を求めて主人公に同行する旅である。
これらはしばしば、混同され、同一のレベルで論じられることが多かったが、その動機も意味合いも全く異なり、その旅立ちに特化して言えば、原作においてドロシーの旅は竜巻によって起こされた偶発的なものであり、それに対して同行者たちの方は自発的に始めた出発であるということだ。

1936年製作の映画はこの点を原作から改変して、ドロシーもまた自ら「虹の彼方」の夢の国を求めて、カンザスを逃げ出したという流れにした。
つまり、ドロシーの逃避願望を強調することで、物語最後の、自分がそれまで気づかなかった幸福と安住の地への定着願望がより際立つという構成なのであろう。

映画はドロシーの冒険譚を夢落ちにしているが、そのための伏線や工夫も各処にあり、たとえば現実の世界から夢の国に飛ばされると、そこに住む住人たちはドロシーの身近な人物とそっくりという設定で、結局物語の初めは機能不全だったドロシーの叔父さん叔母さんたちの家庭が、最後にはドロシー自身の心理的な旅を終えた後の整合性によって、何にも換え難い善き家族となり、「やっぱり家が一番」という台詞で大団円になっている。

ジェリー・グリスウォルドの『家なき子の物語―アメリカ古典児童文学にみる子どもの成長』という児童文学論の中では、ドロシーは家出の果てに、たくさんの個性に出会い、そしてオズの国到着早々に魔女から奪った銀の靴(映画では映像の視覚的効果から赤い靴に変えられている)の潜在的魔力が暗示している「自分本来の価値に気づき、自らの力に目覚める」ことによって、物語の結末で、自分自身の意志によって自分が選んだ家族(安住の地)に定着することができたという主張がある。

魔女から奪った靴を「自分本来の価値」と同等に考えることができるのかは難しい解釈だとは思うが、善い魔女も悪い魔女もすべてドロシーという少女がいつか妻や母親という存在に成長したときの、女性性の側面を体現したものととらえれば成立する。
バウムはドロシーがカンザスに帰宅した時には、「空を飛んでいる間に、銀の靴が砂漠に落ちて、永遠に失われてしまった」としているから、「銀の靴」は女性が自分の幸せや愛情とひきかえにいずれ失わねばならぬ何か(まさきつねは「若さ」や「青春」といったものではないかと思っているのだが)の引喩だろうと考えることも出来る。

そして一方の、かかし、木こり、ライオンたちの旅の方だが、彼らがそれぞれ「脳=知性」「心=無垢」「力=勇気」の象徴であることはよく知られていることだけれど、このキャラクター造形は作者バウムが感化された神智学協会の始祖、マダム・ブラバッキーの言葉「果敢な勇気があれば、征服できないものはない。真の純粋無垢さがあれば、通り抜けることのできない道はない。強い知性があれば、乗り越えられない困難はない」にインスパイアされたものという論がある。

まさきつねはバウムと神智学なるものの関連については、それほど深く知識を持たないのでこの件に私見を述べるつもりはないのだが、この三人も、魔法使いのオズ自身も、とにかくこの物語に登場する男性キャラクターのすべてが、初めて登場したときはどこかに欠損した部分のある不甲斐ない人物像で描かれていることは確かだろう。

そしてこの悩めるだらしない男性陣が軒並み、「ゆりかごの赤ん坊」のごとき無邪気さと大人顔負けの分別をあわせもつ少女ドロシーに出会うことによって、自らの中にある資質の素晴らしさに気づき、自信を回復して、それぞれの旅を救済された魂という大団円で終えることができるのである。

矛盾と不安をかかえた男性たちに対し、救いの手を差し伸べる無垢な存在としてのドロシーを、家父長国アメリカの国家アイデンティティに生じた焦燥や喪失感に希望の光をもたらすアイコンとしたかったというのが翻訳家、吉田純子さんの理論なのだが、確かに1936年の映画製作者たちの本音にはそうした側面もあっただろうけれども、まさきつねは結局のところ、この『オズの魔法使い』という古典的名作の範疇にある映画がゲイのバイブル的存在になっているのは確かで、主人公を演じたジュディ・ガーランドがゲイ・アイコンとして崇められ、今日レインボー・カラーがセクシャル・マイノリティたちのシンボルと定着している事実が、この作品の本質と理解している。

人種、慣習、セクシュアリティ、多くの多様な人間を抱えるアメリカという国において、ゲイであるか否かはさておいても、誰もが何がしかの劣等感を感じざるを得ない社会構造の中で、孤独に置き去りにされたような悲哀に見舞われるとき、夢の国オズの世界観とドロシーの清純無垢で冒険心と行動力のある存在は、何よりも勇気づけられ、困難を乗り越えてゆく希望の象徴と印象付けられたのだろう。

下世話な表現だが、「心は乙女、下半身はケダモノ」とよくゲイの人たちが自分たちの本性をこのように言うけれども、オズの世界のあちこちに見られる無邪気な少女性と勇ましい獣性の両立は、彼らには実に馴染み深く、共感出来る部分なのではないかと思う。

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さて、またしてもオズの作品論が長くなってしまったのだが、こうして考えてくると、『虹の彼方に』の歌の前に『黄色いレンガの道をたどって』の冒頭を付け加えたニコルのプログラム構成は、この上なく秀逸だったという気がする。

ジュディ・ガーランドの死を発端に起こった「ストーンウォール事件」は世界のゲイ解放運動の始まりと言われるが、それから1年が経った1970年6月末、ニューヨークで初めてのゲイ・パレードが行われている。
今でもセクシャル・マイノリティ運動とは切っても切れないパレードだが、まさに虹の向こうにある夢の世界にたどり着くには、黄色い煉瓦道を通ることが必然なのだ。

ちなみにエルトン・ジョンの代表曲『グッバイ・イエロー・ブリック・ロードGoodbye Yellow Brick Road』が、ジュディでのオマージュとして作られたことはよく知られた話だが、本当の幸せとは何か、本来の自分自身に戻るにはどうしたらいいのか、日々模索し続ける人々にとって、黄色い煉瓦道すなわち人生の苦難といかに向き合うか、その課題の方が、虹の彼方の夢をただロマンチックに追いかけるよりもはるかに大事なのだということなのだろう。


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カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ『虹のかかる山岳風景』1824年

[おまけ]
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奇しくもこの記事を書いていたら、アメリカの最高裁で同性婚を認める判決が出たというニュースが伝わってきた。
時代は確実に変わっているのだ。
一人ひとりの選択、生き方、考え方が、マジョリティーの決定した獰猛な規範に押し流されることなく、尊重される時代に変わっているのだ。

ひとことに「虹」と言うが、虹はいつも同じ大きさ、同じ形をしている訳ではない。

たとえば飛行機に乗って、上空から見おろす空の虹は円い輪のような形をして雲の谷間に漂っている。
滝つぼの中にできる虹は、小さな扇をいくつも重ねたような光をはじかせる。
雨上がりの虹は町全体を覆いつつむように大きくて、その端は遠く山に隠れて、その裾には本当に龍の宝物が埋まっているような気がする。
海にかかる虹は、まるで海豚がジャンプするための遊び道具のようだ。

どこから見ても虹は美しいが、見る場所によってその形はどれも違って、そしてどれも違うイマジネーションをかき立ててくれるのだ。

黄色い煉瓦道をたどって誰もが自由な夢を見て、そして夢を見る勇気をもってと、何十年も前にジュディ・ガーランドが人びとに伝えたメッセージが、アメリカという大きな国の巨大な利権の岩のひとつを揺るがし始めたということなのだろう。


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