月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

凍れる星の王子の薔薇 其の弐

フィギュア350-1

Welche Musik soll an Ihrer Beerdigung gespielt werden?
「ご自分の葬儀で流したい曲があるならば?」
Die «Vier Jahreszeiten» von Vivaldi. Das Stück begleitet mich schon mein ganzes Leben. Als ich klein war, lief meine Schwester eine Eislaufkür dazu - es erinnert mich an meine Kindheit. Dann war es 2006 meine Musik, als ich WM-Gold und Olympia-Silber gewann.
「ヴィヴァルディの『四季』でしょうね。この曲は僕の人生において常にそばにありました。僕がまだ子供だった頃、姉がこの曲でスケート演技をしたのです。だから聞くたびにその頃のことを思い出します。2006年には僕がこの曲で滑って、世界選手権では金メダル、オリンピックでは銀メダルを獲得しました。」
Die bisher dümmste Idee Ihres Lebens?
「今までの人生で一番馬鹿なことをしたと思うのは何でしたか?」
Die rote Katze. Ich habe tatsächlich einmal ein Showprogramm gezeigt, verkleidet als rote Katze. Und leider ist das Video auch noch auf Youtube aufgetaucht (wirft die Hände vors Gesicht).
「赤猫でしょう。一度、赤い猫の格好をしてショーで滑ったことがあるんです。残念なことにユーチューブにまでその映像が流れてしまって(顔をてのひらで隠しながら)。」
Welche Bücher haben Ihr Leben massiv beeinflusst?
「あなたの生き方に影響を与えた本は何ですか?」
«Der kleine Prinz». Diese Geschichte hat meinen Geist und Horizont geöffnet.
「『星の王子さま』ですね。この物語は僕の心を開放し、広い視野を与えてくれました。」
Wer ist Ihr bester Freund?
「あなたの一番のお友だちは?」
Meine Katze Wonka. Sie widerspricht mir nie (lacht).
「僕の猫のウォンカ。彼女は僕と一心同体ですから(笑)。」
(ステファン・ランビエール『SCHWEIZER ILLUSTRIERTE』2016年4月22日インタビューより抜粋)
【«Das persönliche Interview» mit Stéphane Lambiel】

◇◇◇◇◇

フィギュア350-11


ランビエールは過去に幾度か、プログラムのレベル上げに固執するあまり、選手一人ひとりの個性が失われたり、演技の芸術性が損なわれたりすることに対する危惧をインタビューで答えているが、それに対するひとつの対処法として、アイスショーでの展開や、プロのスケーターたちによる親善試合のようなものを視野に入れて、フィギュア競技の未来を考えているようだ。

以下参照:Icenetwork/Posted 7/15/15 by Vladislav Luchianov, special to icenetworkより抜粋
lambiel: 'I prefer investing in my sport and my art'
Swiss choreographer elaborates on recent work with world-class students
【Lambiel: 'I prefer investing in my sport and my art'】

Icenetwork: In 2012, you told me that the complexity of programs has attained a level never reached before, but that, unfortunately, the artistry has been somewhat lost in the process. Has anything changed in the last three years?

Lambiel: I think it has become difficult to be creative when you have to follow so many rules, to get the highest levels. Every season, the rules change and new features become the focus of the technical panel, which basically means that everyone has to have them. As a result, most pairs and single skaters do the same lifts, step sequences and spins.
In 2014-15, it was like that with the illusion entrance into spins. And it doesn't even look good half the time. But despite that, when you are able to forget a little bit about the math, and just perform well and share your emotions with the audience and the judges, everyone feels it. There's something in the air. As an athlete, you know when you're on your way to a medal or to the title. Fortunately, this hasn't changed!

Icenetwork: In May, 21-year-old U.S. skater Samantha Cesario, who is known for her artistic and creative approach, announced her retirement, saying that the new scoring system didn't lend itself to her strong suits (performing for an audience, bringing music to life, etc.). Do you fear that early retirements may become a trend in our sport because of such factors?

Lambiel: I don't think it will be a trend. Skaters are athletes; they want to win, and for that they need to abide by the rules and do the best they can, given the constraints. Of course, everyone has the right to take a different route if they feel that things don't work for them anymore. Everyone has their own motives for retiring. Personally, I hope that show skating continues to develop because that's where you can really be free. Professional competitions would also be a great addition if an arrangement can be found with the ISU.

記者:2012年にあなたは、「プログラムの複雑さがこれまでにないほど高いレベルに達してしまった。その反面、残念なことに芸術性が少々失われる結果になっている」と語っています。あれから三年経って何か変化はありましたか?

ランビエール:競技選手はたくさんのルールに従って、最高のレベルを目指します。その中で、演技の独創性を追求するのは、ますます難しくなったと思います。毎シーズン、ルール変更があり、テクニカル・パネルが注目する部分も変わりますが、選手たちはみなこぞってそれに適応しようと努力します。その結果、ペアもシングルの選手も、ほとんどが同じようなリフトやステップ・シークエンスやスピンをやることになってしまうのです。
2014-15シーズンでは、イリュージョンスピン(ウィンドミル・スピンの別名で、キャメルスピンの体勢からフリーレッグと上体を斜めに傾けて風車のようにスピンに入ること)がひとつの流行でした。なのに、ほぼ半々の割合で出来がよくなかったのです。
しかし、たとえそうであっても、得点のことを少し忘れて、良い演技をすることに専念することで、観客やジャッジに思いのたけを伝えることができたとしたら、それは必ず彼らに伝わるのですよ。そのような演技は自分でも何かを感じるのです。アスリートとして、自分がメダルを獲れるとか、勝てるとか、そんなときには自分でも薄々わかるのです。幸いなことに、この感覚は昔からずっと変わらないのですよ!

記者:この五月に、演技の芸術性や創造性で知られていたアメリカのサマンサ・シザリオ選手が、二十一歳で引退を発表しました。彼女の持ち味(観客受けのする演技や、音楽に添った踊りなどなど)では、現在の新採点システムに太刀打ちできないということのようですが。今後もこのような理由で、選手たちの若年での引退という流れが来ると思いますか?

ランビエール:そのようなことにはならないと思いますよ。スケーターはアスリートですから。彼らは勝ちたいと思っていますから。勝つためにはルールを遵守して、制約の中でもできるだけの努力を尽くさなくてはいけないのです。もちろん、どうあがいてもうまくいかないということになれば、いろんな選択肢を考えるのも自由ですからね。引退の動機は人さまざまだと思います。私自身は、アイスショーこそ、スケーターが本当に自由な演技を披露できる場所だと思うので、これからもショーとしてのスケートが発展し続けることを願っています。もしもISUがうまくお膳立てしてくれたなら、プロスケーターによる競技会も素晴らしい選択肢になると思いますね。



ランビエールの言葉には多くの示唆があり、かつ彼が非常に明確なビジョンを持って、多くの試みに挑戦している姿勢がうかがえる。
そして何よりも、彼のインタビューの端々から滲み出るのは、どのスケーターよりも芸術性の高い表現者として定評のある彼が、決して技術をないがしろにしない、むしろ誰よりもルールや規律を重んじるファイターであるという点だろう。

浅田選手について述べたインタビューでも、「規律」という言葉が印象的だったが、ランビエールの目指す美や芸術は、あくまでもこつこつと積み重ねられた練習によって磨き上げられた技術によってのみ表現され、そしてその先に初めて、ルールや定型を超えた独創性や芸術性が表出するということのようだ。

以下の言葉もまた、スケートの仕事に対する彼らしい姿勢が率直に述べられていて、実に清々しい。
2011年ドイツのスケート雑誌『Pirouette』に掲載されたインタビューからの抜粋である。これは原文記事が見つからなかったので、以下のサイトから翻訳記事を引用させていただいた。

【ステファン・ランビエル:心で滑らなければいけない】

「(前略)…振り付け師のキャリアを、多くの可能性を持った才能豊かな人達との仕事で始めることができて僕は幸せです。僕は本当に広いレパートリーの中から創造することができています。その上この夏僕は、日本、ロシア、イタリアといった様々な国の様々なレベルの選手達と仕事をする機会に恵まれました。
自分がこの仕事を愛していることを自覚したし、これから先ますます振り付け師として、選手達と体を使った表現や音楽性を追求し、それによってプログラムに個性が現れるような仕事をしていきたいと思っています。
僕はチャンピオンとだけ仕事をしたいとは思っていません。自分と同じ情熱をフィギュアスケートに持っている選手達、単にジャンプ、ジャンプ、ジャンプだけでなく他の上質なものを求めている選手達と仕事をすることに歓びを感じるのです。
そりゃあテクニックは大切です。でもフィギュアスケートにはもっと他の何かがあると思うのです。そうしてその何か、こそが追求されるべきものなのです。それがしっかりした時、フィギュアスケートは単なるエレメンツの継ぎ合わせだけではなくなるのです。
点数のためではなく、心で滑らなければいけないのです。
一番重要なのは感情でしょう。
滑り終わったときにどのような感情をそこに残していくか、それによってそのスケーターは人の記憶に残るのです。
成功したジャンプは覚えていても、そのプログラムや感情は記憶に残らない選手が多くいます。
僕は、今新しく出て来てトップに向って上がって来ている若い選手達とこの方面について追及していきたいのです。」



『アイスレジェンド』の人選も実に彼らしいが、ランビエールの世界観を構成するためには、勝負に強い選手以上に情感のある演技をするスケーターが求められているということなのだろう。

今の採点システムにおいては、高得点のためにジャッジが加点を与える要件のエレメンツを揃え、高いレベルを獲得しないと勝利していくことは難しい。
だが逆に言えば、毎度高いレベルが取れるエレメンツを並べて、ジャッジ受けの良い無難な演技にまとめておけば、たとえプログラムの密度が薄っぺらでも、得点を伸ばすことはことのほか簡単ということになる。
その結果どの選手たちも、個性的で難しい振付にわざわざ挑戦して芸術性の高いプログラムを作ることよりも、毎回加点を見込める要素ばかりを詰め込んだ似たり寄ったりの演技を、ミスなく熟していくことに終始するのである。

ランビエールがたびたびのインタビューで嘆いている、演技から失われていく芸術性や選手たちの独創性は、このような背景においては必然のことだったといえるだろう。

奇しくも先日引退を表明した村上佳菜子選手が報道陣に語ったという、次のような発言が興味深い。

「全日本の前から、もうこれが最後なのかという思いがあって、先生と相談した上で自分がやりたい演技は、もし最後だったら何だろうと。全日本は悔しい決断だったが、ジャンプのレベルを下げて、皆さんの心に残るような演技がしたいというのが一番に出てきた。それができたのでこれで終わりなんだと。今まではよくても悪くても心残りがあった。全日本の後はあっ、終わりだなとすっきりすることができました」

この発言が掲載されたニュースのタイトルにあったような「ジャンプのレベルを落としても」という表現には、スポーツ競技の側面から鑑みればいささか疑問を感じざるを得ないが、無論、村上選手が発信したかったのは、(いかがわしいマスコミが擦り付けている?)ジャンプ蔑ろな演技推奨などではない。
今の自分の競技選手としての力量や限界を省察して、技術ではない表現で伝えたいものがあったということなのだろう。

海外で修業したらとか、コーチを変えていたらとかのさまざまな「たられば」論もあるようだが、それを今更持ち出すのは酷というもの。
競技者として年々積もっていく精神的ストレスや身体的疲弊を考えれば、村上選手ならずとも、採点システムが課すレベルの要件に食らいついていくことから襲って来る苦痛や苦悩は察して余りある。
村上選手が決してジャンプや技術を軽視したわけではなく、彼女のできる限り努力した上で、ベストを尽くした挑戦が「心に残るような演技」だったのだ。

先ほどのランビエールの言葉にリンクすれば、表現としての完璧さ美しさを求めることもまた、フィギュアスケートのひとつの在り方であり、競技として「追求されるべきもの」であり、人の記憶に残るスケーターとして成就する道なのだ。

とはいえ誤解してはならないのは、ランビエールも述べているように、フィギュアスケートにおいては表現も芸術も、あくまでも優れた技術ありきである。
しかし大事なのは、ランビエールがトップスケーターに求めているような、美しさや芸術に到達するための基礎のしっかりしたスケーティング技術と、競技で得点を重ねることに特化しただけの、ポジションを変えたりレベルを上げたりするための単なるテクニックを混同してはならない。

同時に(このブログでも幾度となく述べてきたが)、美しいものを知る感覚も感動するこころも、そもそもレベルで測れるものでも数値化できるものでもないのだから、観衆の感情を揺さぶるためには、感情のこもった演技で、美しいものを探し求めるこころで、アスリートは銀盤に立つしかないのだとランビエールは繰り返し述べているのだ。

「星の王子さま」ランビエールは、2006年の若かりし頃、憧れのためなら自分の命を落としても構わないとインタビューで語っていた。
またさらに前の、2004年の十八歳当時には、夢は何かという質問に対して、ワールドや五輪での優勝とか表彰台に上がるとか、あるいはジャンプの成功やノーミスの演技とか、いわゆる選手らしい目先の目標を答えるのではなく、「ジャッジ全員からスタンディングオベーションをもらうこと」とスポーツ選手らしからぬ、まるで俳優かダンサーのような願望を口にしている。

あれから競技者としての経験を重ねる中で、多少なりとも変化はあったかもしれないが、それでも試合に勝つことやチャンピオンを目指すこと以上に、スケーターとしての彼を駆り立てる何かがあったということは一貫として変わらない。

勝負にどうしてもこだわるというのなら、プロ選手同士のコンペティションも視野に入れてという風なことを述べてはいるけれども、ランビエールの興味はそもそも、選手同士が数字を狙って競い合うことにはなく、お互いの個性がぶつかり合い響き合い、新しいシナジーが生まれるような精神的な闘いに向けられているように思う。

サン=テグジュペリの『星の王子さま』の一節に「もし、きみが、どこかの星にある花がすきだっら、夜、空を見あげるたのしさったらないよ。どの星も、みんな、花でいっぱいだからねえ」という言葉がある。

ランビエールもまた王子さまのように、夢見ているのだろう。

銀盤の舞台一つ一つで、選手たちひとりひとりがそれぞれに目指す演技を思う存分披露できたなら、星のような光がきらめく冷たい氷の上にも王子さまが愛した美しい薔薇が咲き、やがていっぱいの個性ゆたかな薔薇たちが、すべての観衆に捧げられる花束になることを。


◆◇◆◇◆

最近、巷でいろいろ騒がれている、ランビエールのコーチ写真。腐女子心をそそられるんですよね…


フィギュア350-7
フィギュア350-8
フィギュア350-9
フィギュア350-10
フィギュア350-12
フィギュア350-13
フィギュア350-14
フィギュア350-15
フィギュア350-16
フィギュア350-17
フィギュア350-18
フィギュア350-19
フィギュア350-20
フィギュア350-21
フィギュア350-22

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


もし誰かが、何百万もの星のなかのたったひとつの星にしかない一本の花を愛していたなら、そのたくさんの星をながめるだけで、その人は幸せになれる。
(アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『星の王子さま』)

フィギュア350-49


ランビエールの彼女ウォンカちゃん…

フィギュア350-53


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

にほんブログ村 その他スポーツブログ スケートへ
blogram投票ボタン

関連記事
スポンサーサイト

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://maquis44.blog40.fc2.com/tb.php/517-8e529df5
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。