月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

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ロシアに花咲く乙女たち 其の弐


わしが抱っこしていた娘が
遊んでいた腕白小僧が

いつの間にか大きくなって
まるで記憶にないのだけど

いつのまにか美しくなって
いつのまにか立派になって

まるで昨日のように思い出す
ふたりが幼かったときのことを。

日は昇り、日は沈む。
日は昇り、日は沈む。
流れてゆく慌ただしい日々。
蒔いたばかりの向日葵の種が、
たった一晩で育ち、目の前に咲き誇る。

日は昇り、日は沈む。
日は昇り、日は沈む。
流れてゆく過ぎ去る月日。
季節は移ろうだけ、
喜びと悲しみに満たされて。

どんな言葉を贈ればいい?
どうすればふたりの行く手に示唆を与えられるだろう?

自分たちでお互いから何かを学んでいくでしょう。
日々をただ重ねることで。

ふたりは自然に寄り添っているから。

初々しい番いのように。

次の結婚式の天蓋はぼくたちのためかな。

日は昇り、日は沈む。
日は昇り、日は沈む。
流れてゆく過ぎ去る月日。
季節は移ろうだけ、
喜びと悲しみを溢れさせながら。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

次に二位の鈴木選手のプロトコルである。

SP:3F+2T、3Lz e、FCSp4、LSp4、2A、CCoSp4、SlSt3
FS:3Lz e、2A+3T、3Lo+2T、FCCoSp2、ChSp1、1Lz x、3F+2T+1Lo x、3Lo x、3S< x、FCSp3、SlSt3、CCoSp4

ショートの演技は中国杯を上回り、完成度の高いタンゴだった。ベテランらしい貫録も付いてきて、ジャンプの安定感も素晴らしい。SP一位も頷ける結果だし、ロシアのテレビ局から「日本選手はロシアの選手のように転倒しませんが、何かコツは?」と聞かれているのも道理だろう。
鈴木選手の「たくさん練習すること」という答えも彼女らしく生真面目で納得だが、日本の選手たちはとにかく繰り返し反復練習して、基本の動作と軸の安定した理想のジャンプを頭ではなく身体に覚えさせることを当然のように積み重ねている。
練習で当たり前のように出来るようになって初めて、それが自信となって本番に結実するのだろう。

踊りに関しては、表現することと身体をコントロールして動かすことが、初めから最後までちぐはぐにならず、ステップや繋ぎの動きのどこを切り取ってもバランスのとれたクールな姿勢を保ち続けていられるのは、男子なら高橋選手、女子なら鈴木選手がやはり抜きん出ている。動くフォルムの美しさ、動作から次の動作へ変化する流れの優雅さを、何よりもこの二人は表現として、意識して魅せるのだ。

鈴木選手のインタビューでは「目線を残す」という言葉で語られていたが、目線を残すための「首の反らし」、首を反らせるための「背中の捻り」といった身体の各部分が踊り手の強い意志に制御されて、理想的な姿態を瞬間瞬間に作り上げているということなのだ。

そしてフリーの演技は『屋根の上のヴァイオリン弾き』で、中国杯から衣裳を一新し、柔らかく優しい花嫁衣装のような雰囲気を黒のトリミングをしたひらひらのフリルで醸し出していた。3ルッツのパンクと、三連続ジャンプの最後がシングルになるミスが出て、それが結果的に安藤選手のTESに差を開いた。
ステップは中国杯よりさらに進化して、「人間の温かみ家族の暖かさを表現したい」という彼女の弁に違わない、幸福感に充ちた明るくエレガントな印象に仕上がっていた。

複雑でドラマチックな振り付けはカメレンゴさんならではの拘りを感じるが、それをさりげなくナイーブに熟している鈴木選手の踊りの巧さが、宗教的社会的な側面が重層的に絡み合う作品の世界観を、洒脱な一枚の情景に凝縮して見せてくれた気がする。PCSの上昇は嬉しい限りだが、昨季までが低過ぎたと言ってしまえば、あの名プログラムだった『ウェストサイド・ストーリー』に対するジャッジの浅慮な仕打ちが返す返すも腹立たしくなる。

ところで『ウェストサイド・ストーリー』といえば、『屋根の上のヴァイオリン弾き』の振り付けと演出を担当したジェローム・ロビンスのコンセプトから生まれ、彼の斬新な振り付けで大ヒットした作品である。ユダヤ人だったロビンスはヒスパニックやユダヤといったアメリカ社会のマイノリティが抱える苦悩や問題を、ミュージカルという軽やかな音楽や踊りに昇華して、人間の情愛や宿命といった普遍的なテーマとして世に問うたのだ。

鈴木選手が二年続けて、ロビンスの振り付けたミュージカルをフリーの演目に選んだことに何か意図があったかどうかは定かではないが、いずれも物語の悲劇的な部分から焦点をずらして、恋人同士や家族の愛や幸福に溢れた世界観を表出しているのは、興味深いところである。

鈴木選手の今季フリーではミュージカル冒頭の『序曲?伝統(しきたり)の歌』に始まり、『奇跡の中の奇跡』『サンライズ・サンセット』『結婚式の踊り?ボトル・ダンス』『もし金持なら』など、編曲した劇中歌をメドレーでつなげて、物語の組み立てを分かりやすく、立体的に構成している。

『屋根の上のヴァイオリン弾き』は19世紀ロシアで活躍したイデッシュ語作家の文豪ショレム・アレイヘムの『牛乳屋テヴィエ』という、9編の短編の連作を原作とする。
アレイヘムはウクライナの貧しいユダヤの家に生まれ、キエフやオデッサで暮らしながらユーモアとペーソス溢れる作品を書き、その多くはロシア語にも翻訳されてトルストイ、チェーホフ、ゴーリキーからも高く評価されたが、1905年のポグロム(ユダヤ人虐殺)に衝撃を受け、ヨーロッパ各地を転々とした後アメリカに移住したという。

イデッシュ語は東方ユダヤ人(アシュケナージ)が日常的に用いていた言語で、ヘブライ文字によって表記される歴史あるものながら、長い間「女子供の言葉」として貶められていたらしい。それゆえ、イデッシュ語で文学作品を書くことは、宗教性や思弁性が顕著だったユダヤ人の著作とは一線を画し、アシュケナージの大半を占める民衆に対して、民間伝承や日常の「私的領域」に属する物語を語ることを共通の志向としたようだ。
テヴィエの物語も、20世紀ウクライナのアナテフカという小さな村に住む、貧乏人の子沢山であるユダヤ人教徒の暮らしを、豊饒なイデッシュ語の口語表現の語りで書き留められたものだった。

ブロードウェイでのミュージカル初演は1964年、1971年には映画化もされている『屋根の上のヴァイオリン弾き』。
この題名『Fiddler on the Roof 』は、ローマ皇帝ネロによるユダヤ人大虐殺の折、逃げ惑う群衆の中でひとり屋根に上りヴァイオリンを弾き続けた男がいたという故事を描いた、マルク・シャガールの初期の代表作『緑色のヴァイオリン弾き』に由来するという。

日本版ミュージカルのパンフレットには「シャガールは1920年代の初頭にはまだソ連にいて、モスクワの国立ユダヤ劇場で舞台美術の仕事に携わっており、この絵もそこで1921年に上演されたアレイヘム作品のために彼が描いた壁画を、彼がソ連を去った後に復元したものだという。」とロシア東欧文学研究者、沼野充義さんの解説が付せられている。シャガールもまた、ロシアの田舎ヴィテブスク生まれの東方ユダヤ人であり、アレイヘム作品に自らの生い立ちや故郷を重ねあわせて、その世界観に共鳴していたのだろう。

劇中の台詞からすれば、ユダヤ教の教えに「屋根から落ちずにいつも平静を保つようにな心でヴァイオリンを弾くんだ」というのがあり、迫害を受け不安定な生活を余儀なくさせられるユダヤ人たちが、祖先の教えを忠実に倣い自分たちの伝統やしきたりを守って、自らの尊厳を保ってゆくその不屈の魂の象徴として、シャガールの作品やタイトルが用いられたようだ。

原作にないヴァイオリン弾きが、ミュージカルではテヴィエの心の代弁者となって効果的に扱われ、寡黙な男とその家族の波乱万丈を人間臭く肉付けしているのが、ロングランになるほどのエンターティメントとしても、また奥深い芸術作品としても成功した一因だろう。

さて、最後に話をもう一度鈴木選手に戻すが、彼女が稀代の踊りの名手であればこそ、楽しいにつけ苦しいにつけ、人生の節々で踊りや歌に自らの思いを刻みこんでゆく庶民の生業というものに深く共感し、確かな理解が及ぶのだろう。

「日は昇り、日は沈む」毎日は失われゆくものと、還り来るものの二重構造の中で、残されたものの悲しみと喜びに充ちた記憶が、時として僅かな欠片になってこころに刻まれる。人生なれば、不運も不幸も誰の上にも訪れるが、損なわれた情景であればこそ、ひとは時間と場所に閉ざされた一瞬を良質の歌や言の葉や踊りに凝縮して、永遠に語り伝えたいと願う。

ロシア杯で花開いた乙女たち、鈴木選手、安藤選手の演技は、どこか損なわれた過去への哀惜を、静かにやわらかくその手で撫でてゆくような、温かく豊かなものだった。

後の世も語られるべき芸術はかくあるべきと思う。


(Tevye)
Is this the little girl I carried?
Is this the little boy at play?
(Golde)
I don’t remember growing older
When did they?
(Tevye)
When did she get to be a beauty?
When did he grow to be so tall?
(Golde)
Wasn’t it yesterday
When they were small?
(Men)
Sunrise, sunset
Sunrise, sunset
Swiftly flow the days
Seedlings turn overnight to sunflowers
Blossoming even as we gaze
(Women)
Sunrise, sunset
Sunrise, sunset
Swiftly fly the years
One season following another
Laden with happiness and tears
(Tevye)
What words of wisdom can I give them?
How can I help to ease their way?
(Golde)
Now they must learn from one another
Day by day
(Perchik)
They look so natural together
(Hodel)
Just like two newlyweds should be
(Perchik & Hodel)
Is there a canopy in store for me?
(All)
Sunrise, sunset
Sunrise, sunset
Swiftly fly the years
One season following another
Laden with happiness and tears


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こんにちは、まさきつね様。
鈴木選手のあの最後までスピードの落ちない年齢を感じさせないスケートと彼女の心底スケートを愛しているという気持ちやパフォーマンスから観ている人達へふりまく熱さがとても好きで、北米にもファンが多いです。今期の彼女のSPは、現時点で自分のお気に入りのプロの1つです。ファイナルも頑張って欲しいし、世選で彼女の神演技を是非とも観たいですね。安藤選手のSPも自分は好きで、早く肉離れが回復し、来シーズンお休みとのことなので、ファイナル、全日本、世選と仕上げて行って欲しいです。
今日、フランス杯が終わり、浅田選手は5位でしたが、N杯より確実に進歩しているので、安心しました。欧米のファンの間では、キム選手のように浅田選手もこれまで築いた栄光を犠牲にするくらいなら思い切って休んだ方が良かったのでは?このままだと世選進出すら覚束無いのでは?という声も多いのですが、自分は、練習でいくら出来ても試合で出来なければ何の意味もないと思うので、彼女の進歩を試合を通して見守りたいですね。
2010/11/28(日) 午前 11:14 [ can*dak*ra ]

can*dak*raさま
コメントありがとうございます。エントリーが時世に遅れております(苦笑)。
世界選手権での日本選手の活躍が楽しみになってきましたね。
浅田選手は自分のペースでしっかり足元を見据えながら進化しているのではないでしょうか。これまでの栄光を惜しむのは、彼女に自分の勝手な夢を押し付けてきた周囲の意見ですよね。彼女自身は、ようやく自分らしいスケートに打ち込んでいる実感をおぼえているのではないでしょうか。
結果はその後についてくるものです。たとえ世選に出られなくても、どのような順位に沈んでも、彼女が納得出来るならそれでいいのだと思います。
2010/11/28(日) 午後 0:05 [ まさきつね ]

まさきつね様こんばんは。
今期のFS,鈴木選手だから出来てしまうものの、特に序盤から中盤にかけて全く飽きさせずに見せるダンス技術や表情は素晴らしいですよね。彼女でなければ持てあますプログラムです。
個人的に、女子で高橋選手に匹敵する踊り手は鈴木明子さんだと思っているので、ようやく彼女の持つ技術・表現にジャッジがおいついてきて(もっと出てもいい気がしますが)、少しほっとしています。
積み重ねがないとPCSが出ないのでは、ジャッジは素人と変わりません。
屋根の上のバイオリン弾きについてはほとんど知らなかったので、シャガールまで関わっているとは驚きです。と同時に、仰る通り鈴木選手の周囲を引き込む力を持った明るさと、視覚的にも多彩でしかもどんな演目でも明るく色彩豊かな(私は彼女にはすごくそうを感じるので)演技を見ていると、それはすんなり納得出来るものでした。
苦労して結果、しなやかな強さと朗らかさを増した鈴木選手の前向きな姿勢が伝わってくるようで、いつも感動します。素敵なエントリーありがとうございました。
2010/12/3(金) 午後 7:47 [ すずこ ]

誤字が多くてごめんなさいm(_ _)m
2010/12/3(金) 午後 7:49 [ すずこ ]

すずこさま
コメントうれしいです。(鈴木選手のエントリーにはなかなか皆さまからコメントをいただけないので、特にありがたいです。)
鈴木選手、安藤選手、本当に日本のベテラン勢は今季、円熟した演技を見せてくれますね。鈴木選手は稀有の踊り手で、生きる喜びをダンスで表現する名手です。順位や点数値に関係なく、フィギュアを観る喜びを教えてくれるこんな個性が日本に溢れていることが、何より素晴らしいですね。
2010/12/3(金) 午後 9:47 [ まさきつね ]

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